墓参り

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墓参り

空には青空が広がり、冬のピリッとした寒さはあるが、気持ちの良い天気だ。今日は、3人で朝から電車に乗って出かけている。昨日、父さんが急に提案したんだ。母さんの墓参りに行こうと。 篠田先生と話してから、オレは父さんに全部話した。勇のこと、母さんのこと、そしてまた、漏らしてしまうことがあること。父さんは、黙って聞いてくれて、最後に「辛い思いをさせて悪かった」とオレの頭を抱き寄せた。 オレは、今まで支えていたものを吐き出せた安堵からか、情けないと思いながらも涙を止めることが出来なかった。 母さんは、篠田先生が言っていたように、精神的な病気があって通院していたようだ。母さんがいなくなったあの時期は、だいぶ調子が良くなっていて、外に働きに出たいと言っていたのを、主治医から了承を得られなかったことで、父さんも止めていたらしい。それで、思い立って出て行ってしまったのではないかと父さんは話した。だから、幸のせいではないと、むしろ父さんのせいだったのかもしれないと。 父さんは勇のことも無理をさせていてごめんと謝っていたけど、オレは別に無理をしているわけではなかった。勇の気持ちが痛いほどわかって、その分昔の自分とシンクロして苦しくなったけど、勇と一緒に生活することに後悔したことはない。 それに、篠田先生に失敗してもそういう自分を受け入れてあげることが、必要だと言われて少し追い詰めなくなった分、勇の失敗に対しても少し余裕を持つことができるようになった。 母さんは、身寄りがなかったから無縁仏となり、合祀墓(ごうしぼ)に埋骨されていた。勇も含めて、今まで誰も母さんの墓まりに行っていなく、今回父さんから、これから勇と一緒に生活して行くことちゃんと挨拶に行こうかということになったのだ。母さんのお墓は、電車で1時間ほどの街にあって、来たことのない場所だった。 お墓には、特に名前が書いてある訳ではなく、母さんのお墓だという実感は薄かったけど、この場所に来て手を合わせることで、自分の中で一区切りつけれそうな気がした。 「お母さん、ここで眠っているの?」 「そうだよ。お母さんにお話したいことがあれば、伝わるかもね」 「そっか……。お母さん、お母さんがいなくなって寂しかったけど、今はお父さんも幸兄ちゃんもいるから寂しくないよ」 勇の言葉を聞いて、オレも何か話したくなった。 「母さん、オレはもう高校生になったよ。勇のことも何も心配しないで、ゆっくり眠ってよ」 そんなオレらの頭に、父さんは手を乗せて優しく撫でた。 「さ、帰ろうか。お昼は駅前にあったラーメン食べに行こう」 オレも勇も大きく頷き、母さんのお墓を後にした。 END
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