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番外編 水たまり
学童の先生から、迎えが来たと声をかけられて玄関に行くと、そこには幸兄ちゃんと幸也くんがいた。
幸也くんは今日、ボクの家にお泊りに来ると話し、今の家でもお母さんと住んでいたときも、誰かが泊まりに来る事は1度もなくウキウキしてしまう。
幸也くんに初めて会ったのは、広くんの家に来てから少ししてからだった。勉強や遊びに来ていて、たまにご飯を食べて帰ることもあった。初めて幸也くんに会った時に笑顔で声をかけてくれた。
「君が勇くん?」
「は、はい。えっとー」
「ぼくね、幸司の友達の幸也です。よろしく」
それからは、家に来るたびに声をかけられ、時には一緒にゲームをして遊んだりもした。優しくて、幸兄ちゃんよりちょっと面白くて、もう1人お兄ちゃんができたみたいで、幸也くんが来るのが楽しみになった。
学童の玄関で靴を履いている時に、ズボンが入った袋を幸兄ちゃんに聞かれて困ってしまう。本当のことを言うのは、幸也くんもいたし、言いづらかった。
今日は課外授業の一環で、ボクのクラスは2時間かけて町探検に出かけていて、商店街やスーパーの人に話しを聞きに行ってきた。学校に戻るとちょうど、中休みに入り校庭で終わりの挨拶をして、みんな散りじりに遊びへ向かう。ボクは、帰る途中からおしっこがしたくて、我慢していたからすぐにトイレに向かおうと玄関に急いだ。
それなのに、隣にいた花音ちゃんが「外で遊ばないの?」と声をかけてきて、咄嗟に図書室に行きたいからと返してしまう。おしっこを我慢してるとは、何だかかっこ悪くて言いづらかった。急いでいるのに「じゃあ、私も」と言い、さらに純也くんも「ぼくも今日までに返さなきゃいけないんだった~」と付いてくる。まだ、前を抑えなきゃいけないほど余裕がないわけでなく、急ぎ足になりながらも2人に悟られることなく校舎に向かう。
その時、玄関の方向から何人もの生徒が、外で遊ぶために急いで出てくる。ボク達はその流れから逆流していて、ぶつかりそうになるのを何とか避けながら進んだけど、ボールを持って勢いよく走ってきた男の子にぶつかって、ボクは芝生の上に尻餅をついてしまった。
「いった……あっ」
地面にお尻をついた拍子に、気が緩んでじわーっとパンツをドンドン濡らしていく。
え、あ、うそっ……
一旦、出始めてしまうともう止めることはできなく、お尻の下に水溜りができてしまう。
みんないる前で漏れちゃった……どうしよう……
「もう、危ないじゃない!」
「あー悪い、悪い~。ごめんな~」
ぶつかった上級生の男の子は、軽く謝るとそのまま走って行ってしまったようだ。
「勇、大丈夫?」「勇くん、大丈夫」
花音ちゃんと純也くんの2人同時に声をかけられるが、顔を上げることができない。
「あー、勇!」
純也くんにバレたっと思って、ビクッと体を固くする。
「水溜りの上に転んじゃったの?うわっ、ズボンびちゃびちゃじゃん」
「えっ……」
昨日は1日雨が降っていて、道路や校庭の所々、濡れていたり水溜りになっていた。尻餅をついた辺りも水溜りになっていて、ボクが漏らしちゃったことには気づいていないようだ。
「勇くん、このままじゃ風邪ひいちゃうよ。保健室に着替えがあると思うから、一緒にいこ」
花音ちゃんはそう言うと、手を差し出してボクを起こしてくれる。
「保健室に着替えなんてあるの?」
「あると思うよ。授業中、オシッコ漏らしちゃった人のためにあるって、お姉ちゃんに聞いたことある」
そんな花音ちゃんと純也くんの会話にドキッとする。純也くんも何故か歯切れ悪く「あー」と言うだけだ。
「あれー純也くん、もしかして漏らしちゃったことあったりして~」
「そ、そんなことないよ!!ほら、勇行くよ」
慌ててボクの腕を引っ張って校舎に入っていく。
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