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保健室に行くと、白衣を着た男の人がいた。前に失敗して葉山先生と保健室に来たときは、女の先生しかいなかったし、前の学校も保健室の先生は女の先生だったけど、今日は女の先生はいなかった。
「篠田先生ー、着替えのズボンありますか」
「ん?どうした?」
「勇くんが、水溜りの上に転んじゃった。3年生か4年生の人かな、ぶつかって来て転んじゃったの。そこに水溜りがあって、ズボンが濡れちゃった」
花音ちゃんが説明しているのを遠巻きに見ていると、篠田先生と呼ばれた白衣の男の先生がボクの方を見て近づいてくる。
「君が勇くんだね。はじめましてだね。オレは学校医の篠田朔です」
「がっこうい?」
「そっかー。勇くんは学校探検したときいなかったから、知らないよね。篠田先生はお医者さんなんだよ」
学校にお医者がいるのかとビックリして、篠田先生を見ると目が合って、ニッコリ微笑んでいた。
「そう、学校にいるお医者さん。具合悪い時も、何か心配事があるときでも、保健室にきてね」
ボクが頷くと、篠田先生は今度は花音ちゃんと純也くんに向き直って、2人には遊んでおいでと保健室から出した。
篠田先生は着替えを持って、ボクをカーテンの奥に連れて行く。
「勇くん、水溜りの上に転んじゃっただけ?」
「えっ……あ……」
ボクは下を向いて何も言えなくなってしまう。確かに、ボクのズボンはお尻だけじゃなく、前もぐっしょりと濡れている。
「転んでビックリして、出ちゃったかな」
「ご、ごめんなさい……」
篠田先生は、ボクの頭を優しく撫でる。
「お兄さん達が、ぶつかってこなくて転ばなかったら、間に合ってたよな」
そう言われて、先生を見るとやっぱり優しく微笑んでいて、我慢していた涙が溢れて来た。
幸兄ちゃんになんて言おうか迷った挙句、やっと言葉を発する。
「ズボン……汚しちゃって……」
そう言うのが精一杯で、顔を伏してしまう。
「幸司、懐かしいね。ぼくらもよく持ち帰ったね」
幸也くんが明るく声を発する。ビックリして顔を上げると、幸兄ちゃんも幸也くんも学校でよく失敗しちゃったって教えてくれて、ボクにもそんなにションボリしなくていいんだって言った。
幸兄ちゃんも幸也くんも、漏らしちゃったことがあったなんてビックリだけど、大好きな2人と同じことがわかって、少し落ち込んだ気持ちが晴れていった。
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