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「勇、寝かせてきたよ。一応念のため、おねしょシーツとバスタオルも敷いてきた」
「おお。ありがとな……今朝の話だけど、やっぱりちょっと考えてて......」
「今日も晩飯ん時、みそ汁ひっくり返してたなー」
「ああ。それに今日、給食袋忘れて、学校まで取りに行ってきたんだけど、担任の先生は学校ではそういう不注意な失敗は全くないって言っててな......。持ち帰るのを忘れることは増えたけど、学校に持って来なきゃいけない物を忘れることは全くないって。完璧なくらいに......」
「それって、家でだけってこと?」
「まだわからないけど、気を引きたくてわざとやってるのか......と」
「うーん」
「明日は、土曜で休みだから、ちょっと気をつけて勇のこと観察してみようと思ってる。幸も何か気づいたら教えてくれ」
「あー、うん。わかった」
広くんと幸兄ちゃんがそんな話しをしているなんて、全く考えることもなくボクは今日の出来事を思い出して安堵していた。
夜ご飯の時、おわんを倒して味噌汁をこぼしたけど、「大丈夫だよ」って片付けてくれた......
幸兄ちゃんも「火傷しなかったか」って頭撫でてくれた......
あーよかった。まだ、ボクのこと好きでいてくれてる......
次の日は学校がお休みだったから、近くの図書館まで本を借りに行っていた。家に帰ると、いい匂いがしてきて、今夜のご飯は、カレーライスだとすぐにわかった。いつも食事中は、テレビをつけないで、今日あった話などをそれぞれしていて、ボクの話もいつもうんうんって、聞いてくれる。
今日もそんな風に3人でお話をしていたら、宅配便の人が来て、広くんは玄関に行っしまって、幸兄ちゃんは「おかわりしよう」とキッチンへ行ってしまった。
ボク1人、テーブルに残る。
周りに誰もいないのを確認してボクは、右手をじりじりコップに近づけていく。
ドクドクドク......
毎回、何かをするときは、心臓がドクドクいって、手が震える。
ドクドクドク......
コップに手をかけて、傾きかけたとき、手を掴まれ、コップも押さえられた。
「えっ......」
顔を上げると恐い顔をした広くんが、ボクの手を掴んでいて、幸兄ちゃんの方を見ると、何だか困った顔をしていた。
「勇、何をしようとしてたの?」
低い落ち着いた声だった。ボクは何も言えない......
広くんは、しゃがんでボクの目をまっすぐに見て、また聞いた。
「勇、何をしようとしてたの?」
「......て......手がぶつかっちゃって......それで......その......」
「勇、僕の方を見て。僕は、手を近づけてわざと倒そうとしているように見えたよ」
「……」
ボクの目には、みるみるうちに涙が溜まっていく。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
「勇、僕は怒ってるんじゃないよ。どうしてそういうことをしたか知りたいんだ」
「ごめんなさい」
広くんの顔はいつもの優しい顔に戻っていたけど、ボクは謝るしかできなかった。
「ゆーう!」
ビクッと震わせたボクの体を広くんは、ギュッと抱きしめる。
ボクは、今までの罪悪感が一気に押し寄せて「うわーん」と大声で泣いてしまい、何度も涙を止めようとしたけど、全然止められなかった。
その間ずっと、広くんはボクの背中をさすっていた。
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