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 金持ちの酔狂か。  男は口の端に嘲笑を浮かべ、暗がりにも妖しい光を放つそれを見下ろした。  ドームの中に鎮座する、幅17インチ(43.2㎝)の黄金の五角形──。  (ゴッソリいただいて行くぜ)  “財界の鉄人”と呼ばれる胡桃沢(くるみざわ)の屋敷に護衛として転がり込んで数ヶ月、ようやく好機が巡ってきた。  屋敷内は勘の良い執事が邪魔で動きにくい。しかし外なら別だ。財界の鉄人は、外部にも多数のコレクションを所有している。  ふいに、パンッと音をたててドーム中の照明が灯った。  (え?)  広大なドームに、わらわらと人がなだれ込んでくる。  (んっ?)  泥棒とは、他人の物を盗むこと──。  首尾よく運べば一攫千金。しかし、一つ筋を違えれば。我儘な金持ちにこき使われながら練りに練った計画は水の泡となる。  (ええぇ?)  どんな計画にもアクシデントはつきものだ。  ドームに突然人が入ることもあるし、  「はぅっ……!」  トイレにも行きたくなる。
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