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2.
袖口で汗を拭うと、ひときわ大きな喧騒が耳を突いた。すり鉢状の観客席に続々と人が押し寄せている。
(はぁ!?)
マズい。観客席に気を取られていたら、すぐ目の前にも人々が迫っているではないか。
十人前後の、それぞれにガタイは良いが、ややあどけなさを残す少年たち。
「誰だ、お前」
「ウチの控えにこんな奴いたか?」
彼らは口々に囃し立てる。
こんな時、絶対に狼狽えてはいけない。男は胸を反らせて声を張った。
「ひでぇな、忘れたのかよ! 俺だ! カゲ……山だ!」
「分かってるさ、影山!」
日に焼け、腕白がそのまま成長したようなリーダー格が即答した。仲間の顔と名前を忘れては立場がないと計算したか。
「そ、そうだそうだ」
「山田キャプテンがそう言うなら……」
周囲も認める雰囲気になってきた。あとは、適当に理由をつけて立ち去るだけだ。
キャプテン山田がポンと手を打つ。
「実は横井が腹痛で休みなんだ。お前、代わりに出ろ」
「あぁ? いやいい、帰る!」
雲行きが怪しくなってきた。
キャプテン山田は、一歩前に出て男の肩をガッチリと掴んだ。
「自信持てよ! お前の努力、俺は知ってるぞ!」
絶対知らない。
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