2.

1/2
前へ
/18ページ
次へ

2.

 袖口で汗を拭うと、ひときわ大きな喧騒が耳を突いた。すり鉢状の観客席に続々と人が押し寄せている。  (はぁ!?)  マズい。観客席に気を取られていたら、すぐ目の前にも人々が迫っているではないか。  十人前後の、それぞれにガタイは良いが、ややあどけなさを残す少年たち。  「誰だ、お前」  「ウチの控えにこんな奴いたか?」  彼らは口々に囃し立てる。  こんな時、絶対に狼狽えてはいけない。男は胸を反らせて声を張った。  「ひでぇな、忘れたのかよ! 俺だ! カゲ……山だ!」  「分かってるさ、影山!」  日に焼け、腕白がそのまま成長したようなリーダー格が即答した。仲間の顔と名前を忘れては立場がないと計算したか。  「そ、そうだそうだ」  「山田キャプテンがそう言うなら……」  周囲も認める雰囲気になってきた。あとは、適当に理由をつけて立ち去るだけだ。  キャプテン山田がポンと手を打つ。  「実は横井が腹痛で休みなんだ。お前、代わりに出ろ」  「あぁ? いやいい、帰る!」  雲行きが怪しくなってきた。  キャプテン山田は、一歩前に出て男の肩をガッチリと掴んだ。  「自信持てよ! お前の努力、俺は知ってるぞ!」  絶対知らない。  
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加