聞くは一時の恥だが、聞かないほうがよいことだってあるに違いない

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聞くは一時の恥だが、聞かないほうがよいことだってあるに違いない

 「放課後来い」と言われたら、誰だって「職員室に」と思うんじゃないのか?  なのに、訪ねてみれば「顧問として部活に出ているいるから、不在」ってなんだよ。  しかも、それが今年新設された「オカルト部」って。  オカルト部顧問の数学教師……。  「活動はPCルームでやってるわよ」と教えてくれた、元担任に頭を下げる。  変わってる人だなと思ってたけど、本当に変人だったみたいだ。    教えられたPCルームは、のぞき窓にも暗幕が引かれていて、室内の様子がわからない。  カラフルでPOPな「オカルト活動中!」のルームプレートに不安が募る。 (これ、入ったらダメなやつじゃ……)  ドアに手をかけようか迷っていたとき。  ガラっ!  勢いよくドアがスライドした。 「キミが(わたり)君?」 「あ、はい。……あの」 「待ってたよ~、ほら、入って入って」  3年生カラーのタイを結んだ女生徒が、手招きしながら暗幕の向こうへと消えていく。 「フーミヤさま、迷える子羊が参りましたよ~」 「いや、俺は面談に、」  入室をためらっていたら、さっきの女生徒が戻ってきた。 「時間が押してるから早く。今日は予約が詰まってるんだよ」  予約?  ほかの面談も入ってるってこと? 「今日は初回特別サービス、お得な1時間コースね」 「初回?!あの、オレは面談、」  女生徒に手を引っ張られて室内に入れば、パーティションで仕切られた一角が目に入った。 「かまいませんよ」  その向こうから聞こえてきたのは、(ささや)くようなハスキーな声。 「そのまま置いていっておしまいなさい」 「かしこまりました、フーミヤさま。では、1時間後に」  さっさと出ていってしまった女生徒を見送りながら、肩に下げたカバンを両腕に抱え込んで、一歩下がった。 (へ、変質者……。絶対、帰るべき)  そう思った、そのとき。 「ほら、入れよ」 「え、えぇ?!」  さっきのミステリアスな声とは違う、それはそれは聞き慣れた……。 「せ、先生?!」 「おう。……早くなさい、子羊よ」  後半のナイスミディな声は、どうやって出してるんだよとパーティションをくぐれば……。 「……先生?」  床に置かれた丸い室内灯が、黒のフェイスベールをつけたヒトを照らし上げている。  長いストレートの黒髪、体をすっぽりと覆っているマントみたいな服。 「さあ、座って」  腹の底がゾワゾワするような、妖しい声を出す怪しい人物に度肝を抜かれて、気がつけば向かいのイスに座っていた。 「さて、子羊」 「帰りたいです」 「これやったらな」  声だけ知っている「先生」に戻った黒髪のヒトが、ペラリとプリントを取り出す。 「うぇ」  思わずうなるが、なんだかほっとした。  やっと、ここに来た目的に見合ったものが出てきたから。 「はい、栄えあるサボり第1回目のプリント。解いてみ」 「……」  無言で、5問中の3問解いたところでストップがかかる。 「ふむ、よし。できてるじゃないか。んじゃ次」  次も3問。その次も。  基礎問題だけで免除されてると気づいたときには、もう残り15分ほど。 「なあ(わたり)。課題やる時間、家で取れないのか?」 「……べつに」 「そっかー。やる気スイッチ、押せてやれてないのか。ごめんなー。じゃあ、お詫びにさ」  プリントを片付けた机の上に、見慣れないカードの束が置かれた。 「……何、それ」 「タロットカード。さあ、子羊。今から部活をしましょう」 「それって、お詫びになんかならねぇだろ」 「それってアナタの感想ですよね」 「うっざ」 「部活に入っていたほうが、内申書の印象が良いですよ?」 「こんな胡散臭い部活で?だいたい、フーミヤってなんだよ」 「本名よ?文也っていうの。知らなかった?」 「それってカツラ?女装趣味?」 「インパクト重視。びっくりしたでしょう」 「したけど、きっしょ」 「まあ、照れちゃって」 「照れてねぇっ」  俺が吠えている間も、先生は両手で円を描くようにカードを混ぜている。  そして、器用にひとまとめにすると三つ山を作って、再度重ね合わせた。 「あら、なかなかいいカードが出ましたよ、子羊」  目の前の机には、5枚の絵札が十字に並べられている。 「現状、正義の逆位置。障害、塔の正位置ね。傾向、太陽の逆位置。対策、愚者の正位置。結果は」  真ん中のカードを見て、息が詰まった。 「怖い絵柄だけど、悪くはないの」 「悪くない?……だって、それって」 「そうね、死神」  (なまり)を飲み込んだ胸って、多分こんな感じだと思う。    重くて痛くて。  末端から死んでいく感じ。  だってそのカードは、俺のただの現実だから。
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