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とりあえず言われるがまま、掴まれた手を引っ張られるがままモカに付き添った。
今年で高校最後の文化祭なのだ、協力するだけ協力して、思い出を残すほうがいいと凛は思っていた。あまり交友関係は広くない彼女だが、トラブルを起こすまいと彼女なりにクラスメイトと仲良くしようとしていた。特に高校三年生となると、かなり受験を意識してピリピリし始める時期だ。下手にトラブルを起こすようなことはしたくないのだ。
「連れてきたよ!」
「モカちゃんありがとう〜!猫屋敷さんもごめんね。」
「えっ、あぁ…大丈夫。」
「…早速なんだけど、尺の話ね。先生に確認したら十五分じゃなくて二十分はあるってさ。舞台が使えるのは三十分くらいで、それが二日間で合わせて四つあるのね。」
「尺が伸びる分には問題ないから…。他に何かある?予算とか色々…。」
「特にないかな。運営からは…。何かある人いる?」
文化祭のクラスの運営係がそう問いかけると、衣装班の女子が手を挙げた。それを皮切りに演出係の男子も手を挙げた。
「衣装なんだけど、世界観これで大丈夫かな─。」
「ここの演出、大まかにコンテ考えたけどこんな感じでいい─。」
「あ、待って猫屋敷さん、今週中に台本仕上げられる?」
「えっと…えっと…。」
彼女が周りから投げかけられる質問に目を回していると、それを気にかけた犬走が間に入って、うまく質問を捌いていく。時折猫屋敷を一瞥してはニコッと笑った。
「……ありがとう、モカ。」
「任されちゃうよ!」
犬走は自身の腕の筋肉を見せつけるようなポージングをすると、またクラスメイトに向き合ってワイワイ話し合う。その中で猫屋敷は犬走に導かれて質問に応じる。
そんな気弱で大勢と群れることを得意としない小柄な文学少女が、自ら“泥棒猫”と呼ばれることを求めるのは、それから間もないことであった。
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