猫屋敷さん、気付いてしまわれる

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猫屋敷さん、気付いてしまわれる

 猫屋敷凛は、書きかけの脚本(正確に言えば原稿用紙だが)を手に顔をしかめた。綺麗なストレートヘアもどこか乱れているように見えた。脚本の展開というよりも細部のセリフに悩んでいるのは目に見えて分かった。彼女の巣窟と表現しても遜色のない図書室には彼女一人しかいなかった。  きっと、二階ではみんな居残りしてるのかな。などと関係のない思いを巡らせる。その思いと同時に犬走の顔がよぎり、つい先日、質問攻めに文字通り目を回していた際に助けてもらったことを思い出す。 「…息抜きがてら教室覗いてみようかな。」  などとため息と一緒にその言葉をこぼすと、A4ファイルに半分に折った原稿用紙をしまい、通学バッグに突っ込むと肩にかけて階段を上がり教室に向かう。  チラリと顔を覗かせるとワイワイと作業をしている姿があった。もちろん犬走もそれに加わっていた。犬走は元々役者班ではある。彼女は演劇経験があり、有無も言わせず周りから役者班に入るよう言われた。しかし脚本が完成するまでは、言ってしまえば無職も同等だった。 「あ、リンリン。脚本どう?」 「え…あ…まぁぼちぼち…。明日には出来ると思うよ。あとは…演出の人とかと話し合って色々…かな。」 「一人で脚本なんて大変でしょ?なんかあったら頼ってよ!」 「うん…。大丈夫だから。ありがとう。」  猫屋敷は犬走に向かって優しく笑みを浮かべた。幼馴染の特権ともいえよう猫屋敷の表情に犬走は満足げに応じた。会話に区切りがついた猫屋敷は、恐る恐る尋ねた。 「あの…ところで何してるの?その…十字架に磔にされて…?」 「大道具班のお手伝いだよ!耐久性云々とかサイズ感とか。三姉妹役で一番身長高いの私だからさ!」 「……で、その大道具班の人は?」 「休憩しに行った!」 「なんで?!え?…えー…放置、されてるってこと?」 「大丈夫大丈夫、私の分も飲み物買ってくれるって。しかも手伝ってくれたお礼で奢ってくれるってさ!いや〜百プラスちょっと円、得しちゃった。」 「……えっと、うん、良かったね。」
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