猫屋敷さん、気付いてしまわれる

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* 「リンリン!」 「何─ってちょっと!モカ!屈んで!」 「え─。」  何故か、段ボールは飛んでくる。 「モカ、もう少し腕捲っておかないと、服に絵の具ついちゃうよ?」 「あっ、ほんとだ!ありがとう〜。」  何故か、犬走の注意力が下がる。 「猫屋敷さん、モカちゃん見かけなかった?」 「えっ…ついさっきまで一緒に─。」  何故か、迷子になる。  あまりにも立て続けに、犬走に起こる些細なトラブル。どれも原因は目に見えていた。  リーダー的なポジションが不在であるが為に統率がとれていないこと。最低の想定ができていないこと。準備が不十分であること。  それにいち早く気付いたのは、皮肉にも一人を好み、大勢でワイワイと何か共に作業をするのを得意としない猫屋敷だった。  ここで、気付いたのが犬走や他のクラスメイトであれば、うまくまとめられたかもしれない。しかし猫屋敷には出来なかった。  なぜなら、ただでさえ気弱であるからだ。余程の緊急時(今も緊急といえば緊急だが)で周りが耳を傾けてくれるようでなければ人の前に立てないような少女だ。もしかしたらあがり症を発症して、猫屋敷が自らトラウマを植え付けてしまいかねない。  だからと言って、この状態を放置してしまうと、いつ事故やトラブルが起きてもおかしくはない。猫屋敷としてもこの状態を放置するのはいただけなかった。  一人教室の端で、悶々と立ち尽くしていた。しばらくその場に立ち尽くした後、顔を上げて、大道具班の混乱に乗じて、ロープを切り取り、逃げるように足速に教室を出た─。
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