猫屋敷さん、気分屋になられるらしい

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猫屋敷さん、気分屋になられるらしい

 猫屋敷凛は早朝の涼しい風に当たっていた。現在時刻は朝の七時。始業時刻の八時半には程遠い時間に、彼女は登校していた。もちろん教師も数名しかいない上に、生徒などいるはずもない。むしろ七時といえば、ちょうど学校へ向かう為に家を出る時刻とも言える。 「…やらなきゃ。」  そう言って昨日切ったロープよりも少し太めのロープを取り出す。そして十字架にくるくると巻きつける。そしてまじまじと十字架を見つめる。時折つついたり、揺らしてみたり。その姿はまるで猫が、初めて見るものをつついているようだった。 「…とは言ってみたけど─。」  どうすれば。猫屋敷は首を傾げた。彼女は本の中では色々な職業で色々な体験はしているが、それと現実は天と地の差ほどの違いがある。いくら活字の世界で、魔術師やOLや一般人や超能力者やAIに扮することができても、魔法などは使えないし、書類仕事は─まぁまぁ。一般人レベルはマックスの値を示す。また猫屋敷のインテリジェンスは人工ではなく、自然なものである。いわばNatural IntelligenceつまりNIなのだ。一般人(文学大好き高校生)の肩書きを有するありきたりな人間なのだ。唯一の特徴といえば容姿と読む本の量が多く、幅広い語彙力を有することである。 「うーん…。どうしよう。私がこれを触ってる姿は見られたくないし…。」  猫屋敷は目立つのが苦手な類の人間である。恥ずかしいという感情や気持ちとはまた違う。多くの人からの視線を一斉に浴びるのが苦手なのである。  ふと、猫屋敷の視線に気になるものが捉えられた。
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