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どうやら彼女はお盆に実家に帰らないようだ。
「帰らないのか?」
と聞くと
「週末にでも帰れる距離なので。」
と彼女は言った。
大吾はひとり内心安心した。
あの日は今日だったからだ。
彼女は昨日会社帰りに何かを買って来ていたらしく、カチャカチャと何かを出して来た。
「せっかくだし、花火しませんか?」
コンビニで買ったような線香花火だった。
彼女はいくつか買って来たらしいキャンドルのひとつに火を灯した。大吾が買って来ないような、彼女らしいお洒落なインテリアだった。
ゆらめく灯火が魂を思わせるのは、日本の風習のせいだろうか。
大吾はぼんやりと彼女の後をついて行った。
家の敷地内。
キャンドルから火を灯し、線香花火はパチパチと小さいながらに一心に光り輝く。
それに感動とは言わないが、彼女が嬉しそうなので良しとする。
あっという間に終わってしまって。
「終わっちゃいましたね。」
と彼女は微笑んだ。
美しい女性だな。
そんな当たり前のことを、大吾の頭はのんびり思う。これこそが妹を失ったショックが見せている夢幻ではないのか?
家に入ろうとした真智子の手を、大吾はガッと握ってしまった。
?という表情で真智子が振り返る。
大吾は冷や汗をかいていた。
大丈夫だ。彼女はちゃんとここにいる。
触れることが出来る。幻なんかじゃない。
大吾は真智子を引き寄せて抱きしめた。
大丈夫だ。彼女を感じることが出来る。
彼女は黙って抱きしめられてくれた。
ぽんぽんと大吾の背を叩いてくれる。
「大丈夫ですよ。」
それが何に言っているのか、彼女は気付いているのだろうか。
何度も何度も彼女は大吾を安心させるよう声を掛けてくれた。
息が整い、汗も止まった。
大丈夫、大丈夫だ。
真智子はその手で大吾の顔の汗を拭ってくれた。そしてただ優しく微笑んだ。
真智子は大吾の手を引いて、家の中へと誘った。
大吾は促されるまま、ぼんやりとソファに座る。彼女が冷たい飲み物を用意し、キャンドルに火を灯した。
「こんなのもいいかなって。」
と、彼女は言った。
ゆらゆらと揺らめく灯火。
あぁ、彼女は気付いていたんだと大吾は察する。
なんて優しくて暖かい光。
大吾の目から涙が溢れた。
それはとめどなくとめどなく次々と。
彼女の小さな肩に顔をうずめてしまう。
ありがとう。ありがとう。
真智子は、それに応えるように、咽び泣き震える大吾の肩をぎゅっと抱きしめていた。
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