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この季節にこの場所に来れるとは思っても見なかった。大吾は真智子と姫菜のお墓に来ていた。 高台にあることもあり、照り付ける太陽が大吾から汗を噴き出させる。 彼女は大丈夫だっただろうか? ふと大吾が真智子の方を見ると、四角く折られたハンカチで、丁寧に汗を拭っていた。 そして大吾の視線に気が付くと?と優しく微笑むのだった。 あぁ、今すぐにでも抱き寄せて唇を重ねたいほどに愛おしい。 けど、彼女に怒られてしまうだろうから我慢した。 このお墓には何も入っていない。文字通りただの石なのだ。姫菜は実家の方のお墓で眠っている。ただ部屋の扉すら開けられなくて、姫菜に会いたいと思った時に、会える場所を作りたかっただけだ。あの部屋は姫菜を強く感じ過ぎてしまう。ここなら姫菜に向き合えるのだ。 大吾は墓を水で洗った。気温で石が熱を持っているせいか、かけた水はみるみるうちに乾いて行った。花を生けたが、今度からは姫菜の好きだった花だけにしようか?なんて考える。若い子にこの花は少し年寄りくさいだろうか?線香に火をつけて、手を合わせた。 姫菜…お兄ちゃんしばらくそっちに行けそうに無いんだ。こんな湿っぽいこと「何言ってんの!」と叱られてしまいそうだな。 大吾は微かに笑みを浮かべた。 一緒に生きたい人が出来たんだ。 少しでも長くその人と居たいと思う程。 姫菜にも会って欲しかった。二人を会わせてみたかったよ。無理って分かってるよ。最近はだいぶしゃんとして来たんだ。 お兄ちゃん、この人と結婚しようと思ってる。すごい綺麗な人だろう?会ってたらなんて言ったかな?散々心配させて来たけど、お兄ちゃんが結婚だぞ、すごいだろ。 会いたいよ、姫菜。 その笑い声をまた聞きたい。 姫菜、いつかそっちで会ったら、お兄ちゃんにしては良くやったって褒めてくれよ。 大吾はゆっくりと目を開け、合わせていた手を解いた。 姫菜、こんな情けないお兄ちゃん、これからも見守っててくれよ。
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