天涯の花

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「私たち流れ者は  病気を持っては他所を  巡ることはデキんのです。  風邪一つひかぬよう、  親方に仕込まれました」 生きる術を学びながら 放浪する者の なんと強いことか…、 保護を当たり前とする己の なんと弱いことか… 忠晴は改めて世の中を知った。 水路を隔てて話すうち… 小屋主夫婦がよい人間であったこと、 忠晴の知らぬ遠い町のこと… それから何よりも 忠晴を驚かせたのは 嘉がまだ十七であるということ。 背も忠晴より高く、 背中の肉もガンと付き、 男顔負けの力持ち。 けれど… 「その菜もたんと(たくさん)  召し上がってからお薬を  飲んで下さいまし」 距離があってもよく通る声は 小鳥が歌うように 忠晴の耳には心地よかった。
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