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静かな山の夜ですら
戦闘機のエンジン音が上空に、
度々聞こえるようになった
昭和二十年の春…
「堺も大阪も爆弾を
落とされまくっとるぞ!」
不穏な噂が増える一方で…
「よしぃ!よしぃ!」
「今の声は忠晴か?」
「さようでございますとも!」
夫・和晴に満足気に頷く久里。
医師も驚く体力を、
つけ始めていた忠晴。
水路を挟んで互いの縁側で
朝に昼餉に、夕餉に饅頭と、
無言ながらも微笑む“食卓”。
「よく食べる嘉につられて
忠晴の食も太うなってぇ」
それから…
忠晴が時折絵筆をとっては
嘉にくれてやり…
それを一枚一枚大切に
和紙に挟んで自室に貯める、
嘉の姿も板塀の隙から見えて
微笑ましさに久里の頬は
知らず知らずに緩むのであった。
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