天涯の花

16/34
前へ
/36ページ
次へ
静かな山の夜ですら 戦闘機のエンジン音が上空に、 度々聞こえるようになった 昭和二十年の春…  「堺も大阪も爆弾を   落とされまくっとるぞ!」 不穏な噂が増える一方で… 「よしぃ!よしぃ!」 「今の声は忠晴か?」 「さようでございますとも!」 夫・和晴に満足気に頷く久里。 医師も驚く体力を、 つけ始めていた忠晴。 水路を挟んで互いの縁側で 朝に昼餉に、夕餉に饅頭と、   無言ながらも微笑む“食卓”。 「よく食べる嘉につられて  忠晴の食も太うなってぇ」 それから… 忠晴が時折絵筆をとっては 7cbfd1b3-fb88-477f-bf09-8b3dadaf598b 嘉にくれてやり… それを一枚一枚大切に 和紙に挟んで自室に貯める、 嘉の姿も板塀の隙から見えて 微笑ましさに久里の頬は 知らず知らずに緩むのであった。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

77人が本棚に入れています
本棚に追加