天涯の花

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「さっき…嘉さんを  お義兄さまが呼ぶ声を聞いて  なんだかこちらまで  ウキウキしちゃったわ、ふふ」 「そ、それは…私しか  …あの…使用人がそこには  おらんもんで」 頬を真っ赤に染めた嘉に 「なるほど…嘉さんも…」 鈴子は小さく呟いたが 嘉には聞こえなかった。 「結婚してもわたくしと宗さんは  東京暮らしだから、ここには  めったに来れないけど  来た時はよろしくお願い致します」 鈴子は深々と頭を下げた。 「な!なんてことをお嬢様!  私なんぞに頭なんぞ…  そんな丁寧は“分不相応”で」 嘉は慌てふためいたが 「“分”とは“己の器・働き”、  家柄や学問ではないのです。  家がよくとも学歴があろうとも  “分”の足りぬ者が  礼や金銭を要求するのが不相応。  あなたは“分大相応”です!  嘉さんが眞島家にされた働きは  どんなに頭を下げても下げても  相応には満ちません」 「勿体なや…勿体なや…  私はただ…坊ちゃまさえ  お元気になられるだけで…」 その川の水より清い言葉に 鈴子は感銘すると同時に 「お義兄さまはとんでもない  “heart泥棒”さんね、ふふ」 と、苦笑も漏らした。 「“はーと”?」 嘉が意味を尋ねようとしたとき、 「鈴子さん」 宗晴の呼ぶ声がして 鈴子は片手を振って 去って行った。  
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