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車の中で…
後部座席の忠晴は、
助手席に座る嘉の
風呂敷包みを見つめていた。
(あれ一つできた嘉…)
風呂敷には三日分の着替え。
貴重品を帯に括ってあるだけ。
いつでも“己の分”を
心得て、身の処し方を知る嘉の
(おそらく出ていくつもりだ)
考えなど忠晴には容易く判る。
車に乗るのも躊躇していたが
「今日は祝いの宴で村の衆も
招いておりますから」
運転手に促され、
忠晴が背を押して
助手席に座った嘉。
(何がなんでも引き留めなければ…!
土下座してでも嘉を嫁にと
父さんに願い出よう!
それが駄目なら家を出る。
親の恩は返せぬが…
嘉を失うことは
命を無くすも…同じこと)
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