天涯の花

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“陽の花”・嘉も 少しでも食料の足しにと、 眞島家の田畑手伝いに 日雇いで来ていた。  「身体が大きいと   働きも大きいわあ」 仕事覚えに優れた嘉は 忠晴の母・久里(くり)にも 気に入られ、幼い弟妹も  「はっけよ〜い!」 と、纏わりついて離れなかった。 しかし…“離れなかった”のは 忠晴の視線……。 明るい嘉の声がすると 塀の上からチラチラと 嘉を見ずにはおれない忠晴。  「こっちの畑もお願い」  「はいはい!」  「嘉ちゃん!井戸水お願い」  「はーい!はい!!」 秋空へ抜ける可愛い弾む声は 暗かった忠晴の心を弾ませた。 背の高い嘉が不意と… 不意と風に乗るように 忠晴の離れに顔を向けると…   板塀を真ん中に 忠晴と目が合って… ニコリと笑むは 生まれて初めての“甘露”で 蕩ける忠晴の胸の内。        
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