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実は、俺は遼自身についてほとんど知らない。
遼に声を掛けられて入った葛城プロダクションは、あまり表舞台に力が入っているとは思えない所謂弱小事務所だった。芸能界で活躍するような煌びやかなタレントやアイドルとして名を挙げられるものはおらず、どちらかといえばテレビに出ることが滅多にないグラビアアイドルやAV女優などに力を入れているように感じた。
男なら大抵お世話になったことがある浅田えみこなど、有名AV女優が所属していると知った時は歓喜の声を上げたし、それだけでここに来れてよかったと本気で思ったが、一方で不安も募っていた。
「なー…俺、ホントにダンス続けられんの?」
社長室に挨拶に行くと遼に連れられて、事務所だという雑居ビルのエレベーターに乗っている時、我慢出来なくなってそう聞いた。
「絶対に大丈夫。俺が全てをかけて保証するよ。」
絶対に大丈夫という言葉に、心の底に光が灯り、ぽかぽかとお日様に当たったような温もりを感じた。
『自分勝手すぎんだよ!本番中に勝手に振り変えやがって!』
『お前のせいで台無しだ!二度と面見せんな!』
今も膿んだままじゅくじゅくと痛む元親友で相棒の大翔の言葉に裂かれた切り傷に、初めて優しくガーゼを当てられて処置されるみたいな。
今まで抱えたものとはまた違った優しい痛みを感じた。
それに、結論から言うと俺は社長受けがとてつもなく良かった。
「社長、この子が俺の見つけた原石です!」
︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎しゃちょうしつ︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎となんともゆるいフォントと女児の好みそうなキラキラのシールでデコレーションされたネームボードが吊るされたドアをバーンと効果音がつきそうな勢いで遼が開けながら言い放つ。
「あん?」
遼に続いて部屋に入ると逆光に照らされたツルピカ頭の強面が顔を上げた。
もしかしなくても裏社会と繋がりのあるアレじゃないか…?
見えているのかも分からない真っ黒のサングラス越しにじろりと見定めされているのがわかり頬が引き攣る。
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