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「なんか適当に曲、流してよ」  鏡越しにハルと目を合わせながら促すとハルは慌ててポケットからスマホを取りだし、某有名スポーツブランドのCMでも流れていたフリースタイル向きの有名な曲を流す。  …いいねー。心地よいビートが部屋中に響いて体の芯までどくどくと揺らしているように感じる。思うままに体を動かして音に乗ると、俺の世界は俺の心臓の音と、ビートの振動だけになった。  ふっ、と音が途切れ、途端に世界がまた動きだしたように自分の荒い呼吸や服のスレる音が耳に流れ込んできた。気持ちいい。知らぬ間に口角が上がっていたことを目の前の鏡で知り、慌ててへの字になおす。そんな姿を呆然と見ているハルの姿を鏡越しに見て振り返る。 「拍手くらいくれてもいーんじゃない?」  なんのリアクションもないなんて面白くない。思わず不満を述べると、ハルの体がピクリと動いて、それから喘ぐような呼吸がひとつ溢れた。 「ほんとうに、ほんとうに俺は君に出会えてよかった」  微笑むでもなく、ただ本当に心からそう思っているのだとわかる声で言うものだからぼっと頬に熱がやどる。 「はあ!?お前は恥ってもん知らねーの!?」  思わず大きな声で突っ込んでしまい、またハルの体をびくりと驚かしてしまった。 「あ…ごめん」  女やガキ以外の、ほとんど同年代の男にそんな風に言われるのは初めてでなんだか照れくさくて、でも出会ったあの瞬間からこの男はそういうやつだったと思い出す。
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