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「桜田秀英役を担当させていただきます、レイジです。よろしくお願いします」  自分の順番がきたので席を立ち、軽い自己紹介をして深く頭を下げる。  パチパチと数度目の拍手を聞きながらまたパイプ椅子に腰掛けた。 「足立舞役の本庄麻耶です。今作も精一杯頑張りますのでよろしくお願いします」  隣でさらりと落ちてきた艶やかな黒髪を左手で右耳にかけながら軽く頭を下げるのは、子役としてデビューし今年で芸歴23年目の立派なベテラン女優である本庄麻耶(ほんじょうまや)。  ちらりと目をやることもなく惰性の拍手する俺の太腿を一度だけ撫でて座るこの女の神経の図太さに、流石この業界を生き残ってきただけあるな…と妙に感心する。  前回の撮影のとき成り行きで何度か抱いたが、相性もまあ悪くなく、後腐れなく割り切れる女で楽だったのを思い出した。  監督、原作者、カメラマン、照明や美術スタッフ、俳優といった関係者の挨拶が終わり、監督が帽子をとり立ち上がる。 「今回も監督させていただく小沢です。『桜田と足立』、映画化が実現できるのは皆さん一人一人のおかげです。誰が欠けても、この次へのステップには辿り着けませんでした。主演のレイジくん麻耶ちゃんをはじめとする今作に関わる全ての方と、最高の作品を作り上げられたらなと思ってます。どうぞよろしく」  人好きのする優しげな笑みによって細められた瞼の目尻にも皺を刻み、職人を感じさせる強い眼光に貫禄を感じる。  小沢監督は主に少女漫画の実写化を手掛け、どうにも批判を受けやすいこの手の作品を大成功へと導く名監督だ。  映画ファンの間でも、小沢監督の実写化映画は安心して見れると太鼓判を押されるほど。
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