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ふっ、と意識が覚醒し、重い瞼をゆっくりと開く。バルコニー付きの部屋は足元から天井までがはめ込み式の窓であるダイレクトウィンドウになっていて、その大きな窓からみえる黎明の空は普段よりも近く感じた。
まだ姿をみせない太陽の光線の一部が大気に反射し日の出前の地面に映る。そのため少し明るくなったこの時間のなんともいえない儚さがすきだ。
ごろんと身体を横たえたまま窓枠のフレームに収まる空を眺めていると、ずっと流れていた水音が止まってドアが開く音がする。
「…あ、遼起きたん?おはよ」
普段は着物に隠れてわからない、徹底的に鍛えられ隆起した上半身に彫られたとぐろを巻く蛇と黒薔薇に水滴を垂れ流し、下半身に下着のみを着用した迅は濡れた髪を片手で拭きながらこちらに歩いてくる。
流石に自分だけ横たわってるわけにはいかないと思い身体を起こそうとするけど、力がうまく入らなくて吸収性の高いベッドに軽くバウンドする。
「はは、えーよそんままで。」
ベッドに腰掛けた迅はサイドテーブルの上に置いてあった黒い煙草を一本咥えた。腕を伸ばすくらいはできる。漆黒から朝焼けのような色にグラデーションされたパッケージの煙草の箱と共に置いてあるマッチを取って擦り、迅の煙草に火をつけた。
迅は目を伏せて煙草を一吸い、ふぅ、と少し横を向いて吐き出された紫煙からは重いバニラの匂いがする。煙草を指に挟み、右手で遼のもつ火がついたままのマッチを抜き取り、軽く振って火を消した。
そのまま足元のゴミ箱にマッチ棒を捨てた迅はふと思い出したようにゆったりと立ち上がり冷蔵庫から水を取り出す。
カチカチとキャップを外しながらベッドに戻ってきた迅は遼の首に腕を回して上体を支えながら起こす。
「飲み」
「んっ、ぷ、」
迅に支えられながら傾けられるペットボトルに口付けるが、上手く飲めずに口の端からたらたらと一筋溢れて流れる。
(ちょっと、ペースが早い!)
「ヘッタクソ」
あぷあぷと溺れそうになりながら必死で水を飲む遼は、煙草を咥えながら意地の悪い顔でそう言うを迅をみて、あぁワザとだこのひとは…と恨めしく思う。
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