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見間違えるはずなかった。
今目の前にいるのは、幼稚園の頃から小学校まで一緒だった幼馴染の今井啓司だ。
彼は小学校六年の時に、家族全員で、突然姿を消した。
何も知らずにいなくなってしまった彼に対して、山中光瑠はショックを隠しきれなかった。
それはきっと、心のどこかで微かに秘めた想いがあったからだろう。
「あっ、お、おう」
「あっ、よう」
目が合っただけで、お互いの中で昔の記憶が合致して、片手を軽く挙げながら驚きの表情で挨拶を交わす。
まさか、また会えるなんて……
大学生になって、光瑠は初めてバイトを始めた。
家の近くにあるコンビニで、大学が終わってから22時まで働いている。
啓司は、21時から明け方までの時間でシフトに入るみたいだった。
「山中くん、悪いけど、一通りのこと教えてあげてくれる?」
「わかりました」
「じゃあ、よろしくね」
店長に頼まれて、今は仕事内容の説明をしながら作業している所を見てもらっていた。
レジ打ち、商品の検品・陳列、賞味期限や消費期限が切れた商品が棚に並んでいないかをミスのないようにチェック、ホットスナックが品切れにならないよう調理して補充、清掃などある。
もちろんそれだけではないが、とりあえず終業までの時間で教えられるところまでやろうと決めていた。
「賞味期限は切れているものがあったらクレームの原因や、食中毒の危険性や、お店の評判にも繋がるから気をつけて欲しいのと、トイレ掃除は、使い終わった人が確認できた時に掃除するように気をつけて欲しい」
「わかりました」
「これで一通りの説明が終わったんだけど、何かわからない所とかあったりする?」
「とりあえず、やってみてわからなかったらまた聞く感じでいいですか?」
「もちろん。じゃあ、俺はそろそろ……」
「ありがとうございます。お疲れ様でした」
「お疲れ様」
終業時間になったこともあり、挨拶をしてスタッフルームへと戻る。
ふと隣のロッカーに目をやると、そこには今井というネームが書かれていて、思わずその名前を指でなぞっていた。
心臓が煩いくらいに脈を打つ。昔みたいに胸がキュッて掴まれたみたいな感覚が広がっていく。
忘れたことなんてなかった。ずっと心の片隅に残ったままだった想いが、こんな一瞬で溢れ出す。
「嘘だろ……」
左胸に拳を当てて、目を閉じる。
いつも一緒だった懐かしい日々が、走馬灯のように駆け巡っていく。
誰にも言えなかった淡い恋心……
もう二度と開くことがないと思っていた心の扉が、今音を立てて開く予感がした。
執筆時間……3:30〜4:00、7:25〜8:00
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