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昨日の再会は、気のせいなんじゃないかって疑う気持ちもありながらバイトをしていると、20時すぎに店のドアが開き、今井啓司が入ってきた。
ドクンと心臓が跳ねるのを感じながら、「お疲れ様です」とスタッフルームへ消えて行く後ろ姿を目で追いかける。
やっぱり夢じゃなかった……。
本当に啓司がいるんだ……。
ドキドキしっぱなしの胸を沈める方法がわからず、治まるのをひたすら待つ時間が長い。
六年以上経っても昔の面影は残っていて、相変わらず切長の目に鼻筋の通った男の子というよりも大人の男っぽさが似合う端正な顔立ち。
啓司は覚えているだろうか?
俺たちが幼稚園の頃にした約束を……。
幼い二人の小さな小さな約束を……。
ちょうどお客さんが途切れて、もうすぐ終業時間という時に、店長がレジカウンターへとやって来た。
「山中くん、今日はもう上がっていいよ」
「でも、まだ時間……」
「お客さん来ちゃったら、また時間おしちゃうし、今のうちにね」
「すみません。じゃあ、お言葉に甘えて……失礼します」
「はい。お疲れ様」
「お疲れ様です」
残り五分ちょっとという所で、上がらせてもらうことになった。
挨拶を済ませてスタッフルームへ行くと、着替えを済ませた啓司が机に伏せて目を閉じている。
あの頃もよくこんな風に眠っている啓司に近づいて、頬っぺたを人差し指でちょこんと押して起こそうとしたっけ……。
思い出しながら、俺は無意識に手を伸ばし、啓司の頬に人差し指を当てていた。
「あっ……」
その手が勢いよく掴まれて、啓司と視線がかち合い、思わず声が漏れる。
真っ直ぐに見つめられた瞳は、行き場をなくして逸らすことさえ許されない。
「その起こし方、あの頃のまんまじゃん」
「えっ……お、覚えてるの?」
「覚えてるよ」
「そっか……」
「まさか、またこうして会えるなんてな」
「本当にね、ビックリしちゃった」
「俺も。まあ、またよろしく」
「こちらこそ」
「じゃあ、時間だし行くわ」
「うん。行ってらっしゃい」
「そっちは、お疲れ」
「また、明日ね」
立ち上がって背を向けて歩き出した啓司に声を掛けると、振り返ることなく片手を上げて答えてくれた。
それだけで小さくガッツポーズをしていた自分が可笑しくて、思わず笑ってしまう。
ちゃんと覚えてくれてたんだ……。
「めちゃ嬉しいんだけどっ……」
心の声がダダ漏れになって、その場に一度しゃがみ込みながら口元を抑える。
周りを見渡して誰もいないことを確認すると、もう一回ガッツポーズをしてから、自分のロッカーへと向かい、制服をハンガー掛けてカバンを持ち、スタッフルームから店内へと出た。
「お疲れ様でした」
「はい、お疲れ。明日もよろしく」
「はい」
店長に再度挨拶をして、チラリと啓司の方を見ると、こちらに向かって小さくバイバイしてるのが見えた。
それに答えるように小さく頷くと、店を後にした。
執筆時間…6月23日、7:20〜8:00、17:35〜17:55
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