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公園の裏庭へやって来ると、あの頃と変わらない大きな木の下にポツンと一脚だけあるベンチ。
ここは、この街を一望できる穴場のスポットだ。見つけたのは、幼稚園の帰りにお母さんたちに連れて来てもらった時だった。近くで遊んでいたのに、いつの間にか二人で話し込んでいるお母さんたちを驚かせようと公園の奥へ奥へと入っていき、木とベンチの隙間に小さく身を隠した時だった。
その頃はまだ景色のことなんて気にも留めてなくて、ただお母さんたちに見つからないように手をキツく握りながら、顔を見合わせて笑っていた。
どんどんと時間が経つに連れて、お母さんたちの心配する声が聞こえて来る。
戻らないと……と思って、啓司の手をチョンチョンと自分の方へ何度か揺すると、その手がキュッと握られた。
向かい合うように座って顔を見合わせると、
「僕たち、いつか結婚しようね」
「うん、しよう」
「光瑠のことは、俺が守るから」
「僕も、啓司を守る!」
「約束……」「約束……」
そう言って、小指と小指を結び、ニッコリと笑った。
その時には、もう俺の中に小さな恋心が芽生えていたのかもしれない。
このままずっと、この小指を解きたくないと感じていたのだから。
「懐かしいな……」
「でしょ?」
「小学校の頃は、よく学校帰りに寄って、夕日が沈むまでここにいたよな」
「そうだね」
「また来れるなんて思ってなかったから、本気で嬉しい」
「そっか、良かった」
ベンチに腰を下ろして景色を眺めながら、懐かしそうに啓司が話していて、何だかこっちまで嬉しくなって来る。
本当は聞きたいことがあるけれど、今はまだ聞かないでおこう。
この時間を一緒に過ごしていたいから。
「光瑠は、今、大学行ってんの?」
「そう。入学と同時にバイト始めたんだ」
「へえ、そうなんだ」
「うん。今も実家暮らしだから、お小遣いや大学で使うものくらいは自分で支払いたいしね」
「真面目じゃん」
「そりゃあね。啓司は、夜勤の仕事大変じゃない?」
「まあ、キツイって思うこともあるけど、夜勤の方が時給も高いし」
「そっか。けど、またこうして会えたんだし、昔みたいに過ごせたらいいな」
「そうだな」
お互いに顔を見合わせることはしないけど、同じ景色を見ながらそんなことを話していた。
前みたいに戻れるのかな?
あの頃みたいにいつでも隣にいた二人に戻れるのかな?
何となく騒つく胸を抑えようと深呼吸して、「はい、コレ」とコンビニで買ったパンと飲み物を渡すと、「サンキュ」と受け取って二人で食べた。
執筆時間…6月25、26日
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