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10 来訪者
アメリアがフレディと出ていったあと、女将はランチタイム終了の看板をかけた。
「いつもより早くないですか?」
マーカスが聞くと、来客があると言う。
諜報員のカンが騒ぐ。
「アメリアちゃんに会わせたくない感じ?」
笑ってごまかされたが。
耳が馬車の音を拾った。
「ごちそうさま~!女将、また来ますね」
いつも通り店を出る。
やはり馬車が店の少し先に止まっていた。
小綺麗な男性が降りてくる。三十代後半、四十代だろうか。
店の前で立ち止まり周囲を警戒している。
深呼吸して、ドアを開けようとして止まり、汗をぬぐって、また周囲を見て
怪しいな。
集音魔法を使う
「失礼するぞ、女将」
「お久しぶりです、アガット様」
「店を閉めたのか?気にせず客を優先してもらって構わないと前にも言っただろう」
「うちみたいな店にお貴族様が現れたら、皆さん緊張して味がわからなくなってしまいます」
「亭主も変わりないか?前の店のカツレツはあるか?」
「ありますよ。しかしアガット様、大丈夫ですか?うち、ボリュームあるんで。そろそろ年齢的にキツいんじゃないですか?
野菜を添えた、少なめのものにしましょうか。」
「ふむ。そうだな。久々にあの料理を食べてみたかったのだが。確かに若かったな。
では任せる」
以前からの知り合いのようだ。心配なさそうだ
と集音魔法を解除しようとしたところで
「アメリアは息災か?」
「元気ですよ。お陰でうちも助かってます。」
「そうか。一目でいいから会いたいものだ」
「それは、どうでしょうね。今は休憩中で、庭園でランチデートしています」
ガタガタッ、パリーン
「だいじょうぶですか!?お怪我は?」
「だ、大丈夫だ。すまない女将、グラスの弁償を」
「ああもうそんなのいいですから」
アメリアちゃんに関係あるのか。
「そうか、そんな話が出ているのか。それなら家の籍に入れるのは難しいだろうか。
相手は?貴族か?」
「お相手のことは言えません。どうでしょう。アメリアの決めることです」
しばらく沈黙が続いた。
料理が運ばれてきたようだ。
「相変わらず旨そうなカツだ。ソースが変わっているな」
「アメリアの案で、レモンと玉ねぎのソースなんですよ。女性に人気です」
「なるほど。アメリアが……。このソースは白身魚にも合いそうだな。」
「さすがアガット様は美食家だ。今度試してみます。アメリアにも試食してもらいます」
豪快な大将の笑い声。
あの二人がアメリアに悪意のある者を懐に入れるわけがないと思う。
アガット、アガット、貴族の名前を思い浮かべる。
偽名だろうか。
「どうしたんですかマーカスさん、こんなところで。」
アメリアに声をかけられた。
「ランチ終わっちゃったんですか?何か作りましょうか?」
「いやいや、ランチは食べたよ。アメリアちゃんはデートどうだった?バラは?」
「もう、デートなんかじゃないですよ。ただお弁当を一緒に食べただけですってば」
バンバン叩かれる。
「痛いいたいいたい
アイツ、いい奴なんだよ。アメリアちゃん。マジで。
変人だけど」
アメリアは塔のほうを見た。もう着いたかな
「いい人なのは、知ってます。だから、」
好きにならないようにしないと
声にせず、笑ってごまかした。
その時、店内からアガット卿が出てきた。
アメリアは背筋を伸ばした。
手が震えている、
「やあ、こんにちはアメリア」
「……お久しぶりです、アガット様」
「そちらの彼は?」
マーカスのことを居抜くような目で見てくる。
「マーカス・ガロンと申します。お初にお目にかかります、アガット様」
アメリアが驚いている。
「ふむ、一応貴族の礼は身に付いているようだが、少し歳が離れているのではないか?アメリア」
「アガット様、マーカスさんはお客さんです。邪推して失礼なことをおっしゃらないでください。失礼します。」
アメリアは店に入り、そのまま二階に上がったようだ。
アガット卿は、アメリアを追うように店に入り
(えええええ?)
がっくりと座り込んだ。
「失敗した、……また失敗した、アメリアに嫌われた」
「もう、アガット様。そんなとこに座ったらお召し物が汚れます。ほら、座ってください。マーカスさん手伝って!」
「何なんだこの人……」
女将さんが水を持ってくる。
アガット卿は机に突っ伏したままだ。
「なんで貴方は緊張したら、あのいかにも嫌味な感じの貴族みたいな態度しか取れないんですか」
「はは、ビックリしてつい。アメリアと出会うなんて思ってなかったから」
「会いに来ておいてビックリするって」
「女将がアメリアのいない時間に通してくれて話を聞かせてくれるから今回も会えないと思って」
疎外感。
「あのー、こちらの方は結局アメリアちゃんの何なんですか」
「君がアメリアの何かわからないのに私の情報だけ教えるもんか」
めんどくさいなこの人。
「うう、アメリアに嫌われた」
でも似てる。
似てるわー。このウジウジしたこの感じ。
「アメリアちゃんのことがものすごく好きな男がいるんですが興味あります?」
「いやだ、見たくない想像もしたくない」
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