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12 酒場にて
「マーカス、『アメリアを愛人にしようと付きまとってる貴族の中年男』はまだ来ないのか」
「そろそろ来ると思うんだけどな」
街の酒場の多い通りに連れ出されたフレディは落ち着かないようだ。目当ての店に張り込みをしている。貴族が来るにしては少々、賑やかすぎる。
マーカスは慣れているから一本離れた通りから時々視線を向ける程度。フレディは慣れていないのでウロウロして、見るからに不自然だった。
「あ、あれだよ」
馬車が止まり、男が下りてきた。身なりもスマートだ。帽子の位置を直し、手袋をキュッと引き上げて店の看板を確認した。
「行くぞ、フレディ」
マーカスは素早く向かう。
走ってはいないのにどんどんフレディと距離があいていく。
諜報員、仕事やるときはやるんだな。
「少しいいですか?」
振り返った男にマーカスは笑いかける。
「マーカス君、手紙ですむ話ではないから来たんだ。詳しく教えてくれ。一体どこのどいつが
アメリアを」
「まあまあ。僕も情報のすり合わせをこれからしようと思って来ていただいたのですが、こちらのフレデリック、……フレディ?遅っ!」
ぜいぜいと肩で息をするフレディを酒場に押し込む。
「これが魔術師のフレディです」
「魔術師?ではこいつが『魔術でアメリアを洗脳していかがわしいコトをしようとしてるエロ魔術師』か!?」
「は?」
フレディは息を整えている。
「あ、ジョッキ三杯お願いしまーす!!」
マーカスは遮るように大声で注文する
「そっちこそ『アメリアを愛人にしようと付きまとっている貴族の中年』なんだろう!?」
「ピクルス!ソーセージ!」
「誰が愛人に、しかも中年だと」
「サラミも!追加で!」
「洗脳なんか、するわけ、エロってそんなわけ」
「サ!ラ!ダ!大盛りで!」
「ジョッキお待たせしました~!!」
「「うるさい!」」
二人揃って言った。
店員が、ダン!!!とジョッキを置く。
「すみません」
マーカスはケラケラ笑っている。
「まあ、とりあえず乾杯しましょう二人とも」
「お前のせいだ」
乾杯をして、始まったがアガット卿もフレディもしゃべらない。マーカスだけがどんどん飲んで食べる。
「アメリアとは、どういう関係なんですか」
「アメリアを呼び捨てする君こそどういう関係なんだ」
「そ、の、ま、ま、お返しします」
沈黙。
「うわー、こんな重い飲み会初めて。ほら、仲直りしてください」
誰のせいだと、と二人から睨まれても平気だ。
「で、洗脳エロ魔術師はアメリアとどういう関係だ」
「庭園でお弁当を一緒に食べた仲だ」
「お弁当、ランチデート……貴様か!! 店主、酒もう一杯」
アガット卿はしくしく泣き出した。酒癖がよろしくない。
「うっう、アメリア。だから一緒に住もうって言ってるのに。街で一人で住むなんてこんな奴に狙われて……」
「それは愛人ということですか?」
「違う!第一私は独身だ。」
独身。
貴族は早く結婚するもの
=よほど変な性癖でもあるに違いない
マーカスとフレディは、ほぼ同時にその答えを導き出した
「変態貴族様がアメリアに何の用で付きまとってるんですか?」
「お前たち失礼なことを考えただろう。私は訳あって独身だがやましいことはない。アメリアに下心なぞない!独身だが童貞ではないぞ。」
ジョッキをダーン!とおく。
あんまり中年になってわざわざ言う方もいませんよね、とマーカスは思った。(が、大人なので言わない)
「ぼ、僕だって最近まで性欲自体ほとんどなくて、アメリアに邪な思いを抱いたことなんかない!ただ女神のように崇拝しているんだからな!」
あんまり拗らせてることを言わない方がいいけどね、とマーカスは思った。
「我々はいったい何を見せられてるんでしょうか」
ジョッキのおかわりをマーカスの前にそっと置いて、店主が自分もグラスを持ってきて小さく乾杯した。
素面で聞くに絶えない。
「エデンのアメリアちゃんね、あの子はいい子だから幸せになってほしいね。娘みたいに思ってる奴はたくさん居るよ」
店主は薄く笑った。
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