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15 恋と孤独
塔から降りてくるユージンと上ろうとするマーカスがちょうど真ん中の辺りで出会った。
「久しぶりだな」
ユージンに言われて、少し肩をすくめて会釈するマーカス。
「フレディが随分変わったのはお前のせいか?」
「おかげ、と言ってほしいかな。初めにエデンに行くように言ったのはユージンさんだろ」
「まあ違いない。」
「派閥にフレディを入れるつもりか?」
「そんな直球の質問で、よくあの仕事できるなお前」
ユージンは笑った。
「魔術師はみんな孤独であるべきだ。道を選ぶときは一人で決める。師匠の受け売りだ。お前も気を付けろよ」
マーカスは手を上げた。
魔術のある人間は利用される事が多いので人間不信になりやすい。子供の頃から傷ついて少しずつ学んでいく。フレディを塔に押し込める一因となったマーカスをユージンは認めなかった。
数年後に和解した。
『フレディはあのままだと壊れていたかもしれないから』
二人とも、時期は違うけれどそう思った。
何よりフレディが一般の魔術師に戻る機会も何度かあったのに塔を選んだ。
石造りの塔と木の扉。
そこを開けると最新の魔道具が溢れている。
「また君か。今日は客が多いな」
とても嫌そうな顔で迎えられる。
「大事な用なんだけど」
「どうせたいしたことないだろう」
「アメリアちゃんを待たせている。今日、」
それだけで椅子から立ってローブを脱ぐ。ジャケットを着る。
「どこにいる」
「フレディ、まだ何も言ってないけど」
「君が声も表情も作らずにここに来る。ユージンが来てたのに内容にカマをかけないこと。今日は街に行っていたこと。アメリア。
異例がこれだけ揃えば足りる。
直接アメリアに会うほうが良い。早い方がいい。それだけだ」
フレディは塔を降りた。塔の階段の中心に魔力で動く箱を取り付けている。
王宮の庭園前のベンチにアメリアがいた。
「アメリア、どうしたの?」
「フレデリックさん、すみません。マーカスさんが呼んでくるって行ってしまって。用があるわけじゃないんです」
「今日はエデンを休んでたけど体は大丈夫?」
「はい、体はなんともないです。ランチに来てたんですか?」
「そう。君がいなかったから久しぶりにスープだけ頼んで女将に叱られた。」
「私がいなくてもちゃんと食べてください。」
「うん。君ならそう言うだろうなって思ったんだけど。やっぱり君がいないと味がしない」
アメリアは顔を覆った。
その言い方は、まるで
「今日はユージンという人が塔に来たんだ。僕に感情が欠落してるって言った人。エデンに行って人の感情や恋を見てこいって薦めた人だ。
僕はアメリアに会ってから、ずっと寂しい。今まで塔で一人でなんともなかったのに、君と会わないだけで寂しくて苦しい。」
「フレデリックさん」
泣きそうな顔をするから、手を伸ばした。自分より身長が高いから、頭を撫でることは出来ずに行き場を失くした手が止まる。
その手をフレディが両手で握って、額に当てた。
それは祈るようで。
「恋は楽しいものだと聞いた。だからこんなに寂しいのは、きっと僕は恋が下手なんだろう。
感情の処理が下手なんだと思う。でも、共感が下手な僕は君の悲しいことや怒りをぶつけてもらっても影響しないかもしれない。
もし君が辛いなら、吐き出してくれていい。絶対に僕は君を嫌いにならない」
夕焼けが王宮を染める。影が長く伸びていく。
アメリアはじわじわと熱が灯るのを感じた。閉じられた瞳が開いたら、きっと抗えない。
手の震えが伝わってくる。
どんな恋の告白より、想いが伝わってくる。
フレディの紫の瞳が揺れる。
不安そうに。
その色にアメリアが弱いのを本人は知らない。
こんな人、好きにならないわけないじゃない。
夕焼けより赤くなっているだろうと思った。
頷いて、笑ったらフレディも赤くなったから。
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