17 観劇とミートパイ

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17 観劇とミートパイ

フレディとアメリアは街に出た。 二人ともぎこちない。 「夕飯、どこかで食べましょうか」 アメリアが誘うと、首を縦に振っていた。 劇場の前で、アメリアが止まった。 「これ、どう思いますか?」 「平民と貴族の恋物語、有名ですか?僕は劇を見たことがないので知らない」 「私も、今まで見る勇気がなかったんですけど。フレディさんと一緒なら大丈夫な気がします。」 アメリアが決意を込めて言うので、見ることにした。席はアメリアの希望で退出するかもしれないので後ろの方の安い席にした。 話の筋は 貴族の令嬢が平民と恋に落ちる。 婚約者の男性から嫌がらせを受ける。それを乗り越えて二人は幸せになりました。 めでたしめでたし。 そんな単純なものだった。 アメリアは真剣に見ていたがフレディは集中できない。 途中から腕にしがみつかれているからだ。もう体の半分が心臓になったように鼓動のたびに早くこの拷問のような時間が終われと思っていた。 短い劇だった。 アメリアは何か気分が晴れたような表情だった。 「広場で座ろう。何か飲み物を買ってくる」 ベンチにアメリアを座らせて、フレディは走り去った。 紅茶とフルーツジュースを買ってきて選ばせてくれる。 「さっきの劇、どう思いました?」 アメリアに聞かれてフレディは困った。 「ごめん、正直よくわからなかった。魔術師は貴族も平民も魔力量によってランク分けされるから、主役の二人がなぜ苦しんでるのかわからなかった。婚約は契約だから二人の罪は契約違反ってことだよね。遺恨が残るとしても当事者だけなのに、なんで心中しようとするのかな。まあ最後は許してもらえて良かったんじゃない?あの婚約者もわざと嫌な人物にしてるのかな」 アメリアは、目を見開いて、笑い出した。 「変なこと言ったかな。ごめん。本当に劇とか恋愛とかわからなかったんだ」 「ううん。最高よ。私も変だと思う。ありがとう。」 アメリアはジュースを飲んだ。 「私のお母さんは貴族だったの。お父さんは平民の料理人。めでたしめでたし、で劇は終わるけど実際はそうじゃないわ。子供が生まれて二人は苦労して引っ越しして、お父さんは料理人も辞めて。 病気になって死んじゃった。 あー、言ったらスッキリしちゃった。黙っててごめんなさい」 「何で謝るのかわからないけど、アメリアがスッキリしたなら良かった。」 二人で並んで飲み物を飲んでいると、屋台の匂いがしてきた。 「何か買ってこようか。」 「一緒に行きたい。」 フレディがすぐに行こうとするのを、アメリアが袖を掴んだ。 「は、い」 赤くなるのを見て、可愛いなと思う。 手を繋いだら、ぷるぷると震えている。 「あ、アメリアさん?」 「一緒に選びたいの」 「はい」 ミートパイを買って、噴水の見えるベンチに座る。 「美味しいね。冬になったらこういう風にパイもランチに良いかも。グラタンとか」 「うん」 「野菜も刻んだら入るし、あとはスープとセットとか」 「うん」 「ごめんなさい、私の仕事のことばっかり話してしまって」 「アメリアが楽しそうなのを見てると楽しい」 しばらく恥ずかしそうにしたあと、アメリアは深呼吸をした。 「あのね、さっきの……劇というか、両親の話の続きなんだけど。」 「うん、無理しないで」 「母の婚約者がアガット様だったの。父が亡くなったあと私と母を領地に引き取ってくれたの。 私は、アガット様が母をずっと好きで、父が割り込んで。母も後悔していて、今はアガット様のことを好きだけど私のせいで一緒になれないんだって思い込んでたの。」 「父との出会いや、私が生まれたことはなんだったんだろうって悲しくて。領地では母の知り合いもいて、アガット様ともお似合いって言われたりして。私だけでも父を覚えていようって王都に出てきたの。エデンの大将も女将さんも父の知り合いなの。 あの劇みたいに、アガット様がもっと嫌な人だったら良かったのに。 ずっと、母がお世話になってるのに子供みたいに拗ねてて、それが今日誤解だったってわかって、」 「アメリア、大変だったね。」 背中を軽く撫でられて、涙がこぼれた。 「私生まれてきて、良かったのかな、とか。」 「アメリアの両親や他の人の思いはわからないけど、僕はアメリアが生まれてくれて出会えたことに感謝してる」 キッパリそう言われて、 (だれかに言って欲しかったんだ、私) と気づいた。両親のことを言ったのも、知って欲しかったから。誰でも良いんじゃなくて、この人に。 「ありがとう。嬉しい。」 そのあと、送っていった。王宮の近くのアパート。 「一人で住んでて大丈夫?」 「大丈夫ですよ。王宮勤めの女性も何人かいらっしゃいます」 「アメリア、本当に、いや、今日は疲れてるだろうからよく休んで」 「本当にありがとう。フレディさん、私、誰かを好きになることがずっと怖かったんだけど今日スッキリしたから大丈夫。 だから、好きになってもいい?」 フレディは固まった。 「……?……いい、…イイです、イイデス、 好き……。僕はもっと好き、え?何これ夢」 「また明日。おやすみなさい」 アメリアが手を振って、家に入ってからもフレディは立ち尽くしていた。
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