2 気になる客

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2 気になる客

ランチタイムのあと、アメリアは休憩に入る。 一人暮しのアパートに戻ったり、買い出しを頼まれたりすることもある。 街を散策することもある。 夕飯時にはまた店に出る。 少しメニューも変わり、お酒に合う単品が増えている。 王城で働く人が帰りに軽く飲めるように、グラスワインの種類を増やしたそうだ。 あと、女性用のアルコール度数の低いものも置いている。 男性の横に女性が座って酌をしたり、疑似恋愛めいた会話を楽しむ店は、もっと繁華街にある。 アメリアが昼間と同じようにテキパキと接客をするのが女性客には印象が良いらしい。 そして、普通の女性がいる店ということで男性もそれなりに行儀よく、羽目を外しすぎないので、自然な成り行きで恋が生まれることがあるらしい。 あるらしい、と不確かなのは 「アメリアのおかげて交際して結婚したよ!ありがとう」 と言われることが時々あるからだ。 アメリアとしては普段と同じように接しているつもりなので、不思議だ。 味の好みの似ている常連さん同士に試作品を出してみたら、それがきっかけで二人が大皿をシェアする仲になったり お酒の好きな女性にお酒の弱い男性が無理して飲もうとしていたデキャンタの残りを 相席にして飲んでもらったり 静かに本を読んでる方がちらほら居たので、一画にソファと本棚を置いてみたり (ここには、誰でも本を寄贈できるようにしたら、お忍びで来ていた劇作家と司書が仲良くなったり) アメリアからしたら 「自然と惹かれ合う二人なら、うちじゃなくてもそのうちどこかで会って進展してたんじゃないですか」 って平然と言っているけれど。職場以外で偶然の出会いを望む男女にとっては得難い場となっていた。 まあ、王城で働く人が多いのでもともと顔見知りという場合もあるし、ちょっと探れば人となりを知ることもできる。 アメリアは人の恋が始まるのをみるのが好きだった。 デンバ―さんとカレンさん(王城のメイドさん)は、ランチの次の次の週には夕食を食べに来てくれた。 そのあと、カレンさんが同僚の方たちと夜に来てくれた。 お食事は他で済ましたので、デザートだけでも良いですか?と。 もちろんです!とご案内しました。 夜に女性が入りやすい店って思ってもらえたなら嬉しいです。 ただ、王城の寮に戻るという二人を騎士団の方が送りますって言ってカレンさんの同僚の方たちがうっとりしていたのは……。 もしかしたらデンバーさんには申し訳ないことになっているかもしれない。 カレンさんは黒髪をひとつにまとめた清楚系の方の美人さんだけど、笑顔がフワッと幼くなるのだ。あれはヤバい。 デンバーさんは押しが強い感じでもなさそうだし と、思っていたら彼がやってきた。 「粥」 この時間にお食事ですか、それもお粥ですか、もしかして今日これが一回目のお食事じゃあないでしょうねアナタ 「かしこまりました」 にこり、と笑顔でもろもろの質問を押さえ込んで厨房に伝えに行く。 最近ふらっとやってくる彼は、黒いローブのフードを被っている。前髪が長い。頼むのはスープ、野菜ジュース。一度、アメリアがリゾットと庶民の作るシンプルな玉子粥をすすめたら、時々頼むようになった。 それをゆっくり匙で口に運びながら、じいっと周囲を窺っている。 怪しさしかない。 でも、彼は有名すぎた。 「あ、塔の魔術師」 「え、実在したのか変人フレディ」 「もっとヨボヨボだと思ってた」 「不老不死なんじゃない?」 アメリアとしては、不老不死の前にそんな食生活だと病気になりますよって言ってあげたい。 というか初日に言ったわ。 言ってやったわ。 「ごはん食べに来たんじゃないんですか?」 「違う」 「はあ?」 「ここで男女の出会いがあると聞いたので」 アメリアはイラッとした。 恋の前に健康な体!恋愛のドキドキに耐えられる血管を、まずは野菜、肉、それから…… 珍しく激しい口調で詰め寄った。 「アナタねえ、まともな恋がしたかったらまずは……」 「違う。僕は恋愛を求めているんじゃない。研究、違うな、社会勉強のつもりで見に来たんだ」 こ の ひ と、変 わ っ た 人 だ アメリアは、それ以来彼を見守っている。 だって、悪い人に騙されそうだから。 周囲に身バレしているのにフードを被っているのも、過去につらい思いをしたのかもしれない。とさえ思った。 実は本人はただのクセで無意識なのだったが。
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