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7 特別という響きは何よりの調味料
「へっ?」
少し離れたテーブルを拭いていたアメリアは急に声をかけられてびっくりした。
「こいつ、食の楽しみを忘れてたんだけどこの店のお陰で人間らしくなったって話。」
「あー、確かに、初めは少食でびっくりしましたけど」
そう言いながらフレデリックを見ると目があって、ぷいっとそらされた。
(気にしてるのかな、少食なのを)
「最近は美味しそうにしてらっしゃるので嬉しいです」
とたんに、顔を赤くするのでこちらもつられる。
前髪やフードで隠れてないので、全部彼の表情が見える。
笑顔が少ないので無表情のように思っていたけど、赤面するのは分かりやすいし口をぐっと引き結んだりして、隠せていない。
「ァ、アメ……君がメニューを選んでくれたから」
そう言って、水を飲んだ。
「えっと、手助けできたのなら良かったです」
注文を頼むと他のテーブルから声がかかったので離れた。
フレディは、顔を両手で覆っていた。
「会話、最長記録……」
「この程度で!?」
「ありがとうマーカス」
「誰にも礼を言わないことで有名なフレディが……!ちゃんと人間らしく!」
「俺はそんなに礼儀知らずじゃないだろう。」
女将が料理を運んできた
匂いにそそられ目を輝かせるマーカスと、きょろきょろとするフレディ。
「ははっ、アメリアは休憩だよ。そんなに分かりやすく落ち込まないでくれよ」
「休憩」
「そ。ランチが落ち着いたら、アメリアも食事をとるんだよ。それでまた夕方から店に出る」
表情筋が死んだまま、スープを口に運ぶ。
「ふーん、ということは、今はアメリアちゃんのプライベートタイムってことだな」
「ぷらいべーと、たいむ」
「女将、ここの料理ってお弁当もある?軽食というか。職場で十人分とか注文できる?」
「簡単なものならやってるよ。10個以上なら前日に聞いてれば助かるね。ただ、配達が難しいからあちこちは無理だよ。一ヶ所ならなんとか。」
「じゃあ職場の誰かが取りに来るのは大丈夫?」
「それはいいねえ。取りに来てくれるなら数が増えてもいいよ」
「一個の配達は無理?」
「正直、時間によるね。ランチのピークを過ぎてればなんとか。アメリアの休憩をずらして対応出来ないこともないけど」
「じゃあさ」
マーカスがナイフを置いた。
「時間は決まってなくていいから、アメリアちゃんの休憩ついでに塔に弁当の配達してくれないか?料金は俺が払う。」
「そんなこと始めたらアメリア目当ての客がみんな指名してたいへんなことになるよ。ダメダメ、うちはアメリアに変な虫がつかないように見張ってるんだから」
「やっぱり無理かー」
「あの、弁当を頼んで、俺が取りに来るのは構わないか?」
フレディがポツリと言った。
「もちろんそれなら大丈夫だよ!」
「……時々なら、届けても良いですよ」
アメリアが奥から出てきた。
「本当に?ありがとうアメリアちゃん!」
マーカスがアメリアの手を握った。
途端に周囲の重力が変わり、テーブル周囲がめり込んだ。
「フレディー!」
「あ、つい」
塔のように結界魔法のないところで魔術を使うと、影響が未知数なので禁じられている
店の外
「良かったな、時々でも届けてくれるって特別待遇じゃん」
「とくべつ」
「お前、アメリアちゃん絡むと知能低下する呪いでもかかってんの?」
背中をバンバン叩きながらも、応援しているのがわかった
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