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9 二人でランチ
女将さんに言われたので、とりあえず庭園に来たものの。
急に二人で店の外で会うなんてフレディは地面から浮いているように落ち着かない。
ベンチや芝生のあちこちに恋人らしき男女が座っている。
邪魔にならないようになるべく目立たないところにと思ったけれど、人目のないところを探していると思われたらどうしよう、とアメリアを見ると、目が合った。
(あ、かわいい好き)
店内では気づかなかったけれど、アメリアの方が背が低いので目線が違う。しかもエプロンをしていないので雰囲気が違う。
「どこか座りましょうか、せっかくお弁当が温かいうちに」
アメリアが髪を気にしながら言った。
「そうですね。」
石のベンチがあったので、フレディはローブを脱いで敷いた。
「どうぞ」
「座れませんよ、魔術師のローブって大切なものなんじゃないんですか?」
「いや別に。楽だから着てるだけ。何枚でも洗い替えあるし」
アメリアが座るまでフレディも座らない気だ。二人して立っているのもおかしいので、アメリアはおそるおそるローブの上に座った。
「飲み物買ってくるけど何がいい?」
庭園の真ん中に屋台がある。
「アイスティーでお願いします」
買いにいく姿が小さくなる。走ってるところを始めて見た、と気づいてドキドキした。ローブを脱いだらTシャツで、思ったよりラフな格好だったんだ、とか。手足長いな、とか。前はもっと食べなかったし弱々しい感じだったのに近くで見たら腕もちゃんと男の人っぽいし。
知らないところばかり一度にみて、困ってしまう。
帰ってくるときも、走ってる。
「そんなに急がなくてもいいですよ」
「休憩が短くなると悪いから」
アイスティーを渡す。
一人分あけてフレディも座る
「夢みたいだ」
フレディが言った。
バラが風に揺れている。
アメリアが視線で続きを問うと、
「少し前まで塔で一人だった。食事も興味なかった。こんな昼間に外で君と同じものを食べてるなんて。」
眩しそうに目を細めて笑った。
「たくさん食べるようになりましたもんね」
「うん。食事をするために魔力を消費してる」
「何ですか、それ」
「食事をしないと君に会えないから」
お弁当を平らげながら真面目な顔で言うので、笑えなかった。
マーカスさんの冗談みたいではなく、淡々と言うから、じわじわと頬が暑くなる。
無自覚、たちが悪い。
アイスティーをつい飲んでしまう。
彼は孤独だったから。
だから、今が人間らしく戻っているから。
私が勘違いしたら後で後悔するし、彼が勘違いしているのかもしれない。
「今日も美味しかった。ありがとう」
フレディの綺麗な笑顔が寂しかった。
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