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彼女は清楚な服装を好む。今着ている服も、綺麗なラインのワンピースに、薄手のカーディガン、とても女の子らしい服装だ。けれど、この部屋にはそんな服は見当たらず、ズボンやロンTなど、カジュアルな服装ばかり見かけるのだ。
色々な服装を楽しむ人もいるし、ね…と、自分に言い聞かせる。キッチンからいい匂いが立ち込めてきた。あ、ハンバーグじゃない、Aちゃんったら、私のリクエスト忘れちゃってたのかな? 天然っぽいもんね、あの子。
私はふふっ、と、笑って、たまたま目を向けた棚の上に写真立てがあることに気が付いた。何故か、下に倒されていたけれど、絶対、Aちゃんと彼氏のツーショットだよね?
リクエストを聞いてくれなかった仕返しだ、こっそり見ちゃおうっと! 私は悪戯心で、足音立てずにそっと棚に近付いた。そして、写真立てに手を伸ばす…。
私は、何だか嫌な予感がして手を止めた。
誰かからの、視線を、感じる…。
私はキッチンに目を向けた。Aちゃんはこちらに背を向けて、鼻歌を歌いながら調理している。
冷や汗が、吹き出した。私は執拗に後ろを振り返ったりして、何度も誰もいないことを確認する。当たり前だ、この部屋には今、私とAちゃんしかいないんだから!
私は倒された写真立ての横にある男性物の腕時計の存在に気が付いた。ガラスはひび割れていて、所々に血液が付着していた。
私は声にならない叫びをあげて、尻もちをつく。そして、顔をあげて、ぞっとした。
包丁を持ったAちゃんが、キッチンからこちらを見ていたのだ。
「あ、あの、私…手をっ、洗ってくるねっ…!」
私はAちゃんの視線から逃げるように、洗面所の方へと走った。Aちゃんは虚な目で『あ、そうだ、あの人、煮物も好きだから作ってあげないと」と言って、調理を再開していた。
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