私、彼氏と同棲しています。

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 震える腕で、自分の体を必死に支えた。  Aちゃんの鼻歌は、今もキッチンから聞こえてくる。じゃあ、後ろにいるのは誰?  まさか、彼氏の幽霊…なんてこと、ない、よね…気のせい、だよね…? 『———』  私の耳元で、聞いたこともない不協和音のような声がした。  ゾワ、と、背筋に冷気が走る。 『ミサキ』  名前を呼ばれた気がして、私は反射的に顔を上げてしまった。 「っ…!! ぁ、ぅあ…!」  私は青褪めた顔で、ひくついた喉から情けない叫び声を上げる。  鏡に映る私の後ろに、血だらけの男性が立っていたからだ。私は確信した。この人が、Aちゃんの彼氏だ。彼氏はやっぱり亡くなっていて、Aちゃんはっ…!!  彼氏の幽霊は青白い顔で、鏡越しに私を見ると、ニチャア…と、歪んだ笑みを浮かべた。 「ひっ!?」  幽霊が、切り裂かれたような痕が幾つもある腕を上げて、私の肩に触れた。 『オ帰り、ミサキ』  おか、えり…!? どういうこと!? 『ミサキ、お前、モもしカシシテ忘レテイイルノか?』  幽霊の顔が歪んだ笑顔から、段々と憎悪に満ちた表情へと変化していく。 『オ俺のストーカーだっタアアノ女に、俺とミサキがこの部屋デ、コ殺されタコト、忘れレたのか?』 「……え…?」  見ると、私の額がぱっくりと開いていて、一筋の血が流れ落ちていた。その血は鼻筋を通って、横にずれると、そのまま口端に流れ落ちていった。血を辿って視線を落とせば、私の身体には幾つもの切り裂いた痕があった。  …そうだ、思い出した。私の彼氏がストーカー被害にあっていて、引っ越すのと同時に、私たちは同棲を始めたんだ。  そして私たちは、名前も知らないAちゃんに滅多刺しにされて、この部屋で殺されたのだ。 『オ思い、出シタ…』  鏡に映る、私と彼氏の惨殺死体。 『ノの呪イ殺ころし、テ、ヤヤルから…』  私たちの幸せな日々を奪ったあの女が、憎い。
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