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IDEOの入信に際する決まりごとはない。老若男女来るもの拒まず。そして、去るものは許さず、である。一度IDEOに足を踏み入れれば二度と元の生活に戻ることはない。
たまにこうして現れる脱獄者をエリック達で保護して情報を聞き出しているが、大抵はIDEOで受けた酷い扱いのせいで碌な精神状態ではない。今回のようにはっきりとした意思疎通が取れる存在は大変貴重だったのだ。
何故死んでしまったのだ…… そう考えてから、自分を律した。己の目的のために人の命の重さを決めるなんて、奴らと同じくらい醜い行為だ。私はそんな人間にはならない。
ポンッとノアの背中をエリックが叩いた。軽くのつもりだろうが結構痛い、筋肉馬鹿が。不服さを全面に出してエリックを睨みつける。
「そう思いつめるな。着実に近づいている。少なくとも、ただ悔しんで泣くだけだったガキの頃とは違うんだ。あいつらの正体を暴いてやる日もそう遠くないさ」
「……そうだな」
単細胞に気を使わせるほど切羽詰まった顔をしていたのだろう。それを邪険にする気にはなれなかった。
口ではああ言ったが、ノアの心は依然ざわついていた。着実に近づいていると言われても、ゴールがどこかも分からない。正体を暴くどころか、知らないうちに死神の鎌がノアたちの喉元に突きつけられているのではないか。
タイムリミットは、もうすぐそこかもしれない。
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