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善人と愚者1
水曜の午後に再びマーガレットが事務所にやってきて、夢の最終チェックを行った。
事務所の奥には擬似夢を見るためのスペースが設けられている。ビロードのカーテンを開けるとそこには小さな書斎程の空間が広がっていた。壁一面に世界各国の物語が整頓され、中央にはダークブラウンの牛革のリクライニングチェアが一脚、その傍らにはサイドテーブルと注がれたばかりの紅茶が一杯。部屋にはキャンドルのオレンジ色の炎が揺らめき、仄かに白檀の香りが漂っている。
「素敵…… ずっとここに居たくなりますわ」
「私の夢は殆ど脳に影響を及ぼしませんが、念には念をいれております。IDEOのもの程精巧ではありませんが、簡易的に脳波を測定できるスキャナも用意しております。少しでもあなたの脳波が乱れれば、すぐに中断いたしますので安心して夢をご覧ください」
「そうさせていただくわ」
マーガレットは既に夢見心地といった様子でチェアに身を預け、紅茶をすすり、白檀の香りに酔いしれた。存分に心を落ち着けたタイミングでスキャナを装着し、ノアに伝える。
「お願いします」
「良い夢を」
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