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善人と愚者2
幹部会議が思ったよりも長引いて、アイザックは苛立ちと疲弊を隠せていない様子だ。
「今日もあの夢にしよう……」
エントランスに着くと苛立ちの種が目に入り、余計に彼の心がかき乱される。いつもの冷静沈着な紳士の仮面が剝がれかけるが、そんな自分を抑えきれない。
「何をしているんだ、カーター。車の手配はどうした」
「ネルソン様! く、車ですね。はい、今すぐ……」
「おい、いったい今まで何をしていたんだ? 必要な書類は渡さないし、車の手配もしていないとは…… お前は私の秘書だろう? 女性に現を抜かす暇があるなら、まずは自分の仕事を全うしろ!」
「じょ、女性!? まさか、見ていたのですかっ……」
その言葉と、秘書の慌てふためく動揺の顔を前に、ついにアイザックの理性は失われようとしていた。大衆の面前で秘書を𠮟りつけようとしたその瞬間––––
「ザック!!」
「っ!? マーガレット…… 嬢。どうされたのです、髪も服も乱れているじゃないですか。それに、先ほどもお伝えしたでしょう。こんな人前でザックと呼ばれるのは––––」
「いやよ、何度でも呼ぶわ、ザック! 私、貴方に言いたいことがあるの」
会議を共にした男性陣はバツが悪そうに視線をそらし、たまたま居合わせた貴婦人方は聞こえないふりをしながらも、チラチラとこちらを伺っている。何も知らない者は心を躍らせ、アイザックの立場を知る者は半ば軽蔑に近い眼差しを向ける。
「あ、あぁ。この間のお父様も交えた商談のことですか? そんなに急いでお答えいただかなくても良かったのに。 ……場所を変えましょう。落ち着いた方がよさそうだ。カーター、応接室を押さえてくれ。マーガレット嬢のためにタオルと冷たいカモミールティーもだ」
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