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「いい加減にしてくれ! 俺の気持ちも知らないで。俺がどれだけ君を愛していたか、君を欲していたか知りもしないで。自分だけが想っていたように言わないでくれ!」
初めて目にするアイザックの態度に、マーガレットは口を開けたまま固まってしまう。
「どれだけ苦しかったと思う!? 俺は一代で事業を築き上げた成り上がりで、君は由緒正しいウッズ家のご令嬢だ。周りはこんな俺を蔑み、ちっとも認めようとしない。あの手この手で事業を失敗させようとする屑ばかりの世の中で、しがみ付くのが精一杯だ。そんな俺と一緒になって、君が幸せなはずがないだろう」
「ザック……」
「それでも君を引き留めたくて、善人の仮面を被った。君はいつも俺を心の清らかな人だと褒めてくれるけれど、全然そんなことない。俺が優しくするのは君に良い人だと思われたいからだ。今日だって君とカーターが世間話をする仲だって知って気が狂うほど嫉妬した。更には俺には言えない関係なんじゃないかと最低なことまで考えて……」
向かい合って座っていたマーガレットは、ゆっくりとアイザックの隣に移動した。
「秘書さんには…… そう、ザックとのことを相談していただけなの。本当にそれだけの関係よ。それよりもザック、そんなにも私を想ってくれているのに他の女性と婚約したのはなぜ?」
「それは、本当に政略結婚なのさ。俺は新しく始めた事業の技術を、向こうからは後ろ盾を受ける契約だった。婚約者殿にはすでに心に決めた男がいるようだし、俺には言うまでもなく、君がいる。お互いの目的が達成されたら婚約も円満な形で解消する取り決めだったんだ」
「そんな…… 私ちっとも知らなくて。あんな大勢の前でなんてことを––––」
慌てるマーガレットの頬にアイザックが優しく触れる。今度は彼が焼けてしまうような視線を彼女に向ける。マーガレットはどんどん顔を赤らめさせるが、アイザックは逃がすつもりはないようだ。
「けれど、ここまで熱烈な告白を受けて、待ってくれとは言えないよな。俺ももう自分に嘘はつかないよ。君を離しはしないし、俺を陥れようとする奴らは返り討ちにしてやる。婚約はすぐにでも解消するよ」
「ザック…… 貴方印象がだいぶ違うわ」
「前の紳士的なアイザック・ネルソンがお好みなら戻しますよ? 貴方のためなら私は何者にだってなりましょう」
「いいえ。以前の紳士様も素敵だけれど、ありのままの貴方が好きよ」
「俺も、君のそばかすが愛おしくてたまらないよ。マーガレット」
「駆け引きなんてしなければよかった。私たちって本当馬鹿ね」
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