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夢を見させてやる
秋が深まり、陽が沈むのが早くなった今日この頃。
すれ違う人々を横目にノアは歩を進める。彼らが見つめる先にあるのは『夢』である。抽象的な表現などではなく、実際に夢が店頭で売られているのだ。
ノア・クラークは夢を見る。それのどこが特別かというと、今やこの世界で唯一の存在なのだ。
約三十年ほど前の話、人々は夢を見なくなった。電波が脳を溶かしただ、化学調味料のせいだ等と散々議論をされたが結局原因は解明されていない。
「寝ても疲れが取れない」「思考が鈍くなり仕事が手につかない」そんな人達がぽつぽつと増えていき、何かおかしいと気付いた時には世界規模の問題となっていた。
そして、それと並行して「最近夢を見ていない気がする」「夢日記を付けなくなって2ヶ月経つ」といった話も増え、同時多発的に人々が夢を見なくなったこと、そして恐らくそれが脳に何らかの悪影響を及ぼしていると結論づけられた。
夢は脳が記憶の整理をしている際に生じるノイズであるとも言われているが、つまり夢を見ないと言うことはその記憶の処理が正しく行われていないということである。
記憶力・集中力の低下、眠りの質の低下による慢性的な疲労感、鬱症状などがみられた。この状態が末期になると脳の処理が追いつかず、やがて何も思考できず何もすることができない、一種の脳死状態となった。この状態は “Lack of Dream” 通称「ロッド」と言われている。
結局夢を見るか否かに、人種も性別も脳の構造にも関連性を見出すことは出来なかった。そこから人々の使命は夢を見る方法ではなく、夢に取って代わるものの発明へと移っていった。
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