立花蓮也

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立花蓮也

 立花は静かに相手の思惑を読み取ろうとしている。ノアたち四人が仲間同士なのか、もしそうなら警備隊すら味方につけているのか。  立花の警戒が疑念に変わる前に、ノアは話を進めようとした。 「どうでしょう、話していただけませんか?」 「それを聞いてどうするおつもりですか。どのような理由であれ、必要な手続きを踏んでいただけなければ私からお話しすることは何もありません」 「正式な手順を踏んでしまってはむしろ逆効果なんですよ。警察省にもIDEOの手は伸びていますからね。開示請求なんて通るわけがないですし、申請した翌日には重要な証拠類は全て削除されてしまうでしょうね。口を滑らしそうな下っ端の職員は書類と一緒にされるかもしれません。だからこうして貴方から口頭でお聞きするのが一番確実で、一番安全なんです」 「IDEOの手? 処分? 一体何を仰っているんですか。まるでIDEOが悪の組織かのような口ぶりですね」  立花以外の四人の空気がピリついた。  支援者である立花ならIDEOの腐敗や権力者との繋がりは当然知っているものと思っていた。援助の見返りとしてIDEO製の擬似夢を受け取っている可能性も見込んでいた。  何も夢の内容は残虐性に富んだものに限らない。夢でなら、亡くなった妻を生き返らせることだって出来るのだから。  が、結果はどうだろう。彼はIDEOの肩を持つ訳でもなく、そもそもの疑いすら抱いていない様子だ。彼が演技をしているようには見えない。  奴らは何かを嗅ぎつけ利用しようとする人間よりも、アイザックのように権力を持たない者や、立花のように疑いを持たず仕事に専念するような人間に付け入るのかもしれない。  何も知らない者をこちら側に引き入れてしまうのは彼を危険に晒すことになる。  ノア達のその一瞬の空気を立花は感じ取っていた。それこそ新聞記者や陰謀論を唱える輩のように嬉々として語ってくれば、立花も出鱈目だと跳ね除けられただろう。  ノアの逡巡は、むしろ立花に興味を抱かせてしまったらしい。 「この世界をロッドの危機から救ってくれたIDEOに陰謀論は付きものです。そんなものに食いつくほど私も馬鹿ではありません。しかし、支援相手に何か問題があっては私も困ってしまいますから、話を聞くだけなら問題ないでしょう」 「いえ。先ほどのお返事で、貴方が私たちの欲している情報をお持ちでないと分かってしまいました。これだけお時間を割いていただいたのに申し訳ありません。この話は無かったことにしていただきたい」  何も知らない人間を巻き込むことは出来ない、それがノアの下した決断だった。  他三人も、今日までの苦労が水の泡になってしまったが、これで良かったのだという表情を浮かべている。  しかし納得のいっていない人間が一人残っていた––––  
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