立花蓮也

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「そうですか、では結構。明日から直接聞き込みを始めます。必要に応じてIDEOの方々にも事実確認をとる必要がありそうですね」 「慣れない嘘は吐くものじゃない。身内を大切にする貴方がそんな危険を冒すはずがありません」 「それは明日以降分かることですね」    ノアと立花が見つめあう。  残念なことに、立花の瞳に躊躇や恐怖は感じられなかった。ノアが深いため息を吐く。自分の信念を貫ける人間には敵わない。 「全く貴方という人は…… ではこうしましょう。私たちが持ち合わせているIDEOの情報をお伝えします、そのかわり貴方からIDEOについて詮索しないで頂きたい。聞き込みなど以ての外です、何か知りたければ私の元へ」 「加えて私は貴方たちに、大事な支援相手の情報を無償で提供するわけですか? お世辞にも取引とは言えませんね」 「そのお礼はこちらで」  そう言うとノアはおもむろにパソコンを取り出し、擬似夢チップを読み取らせた。  立花は一目見てそこが愛娘の寝室だと気づき、戸惑いが混じった鋭い表情を浮かべた。本当に娘が絡むと一気に攻撃性が増すな、とむしろ感心してしまう。  怒りが勝って話を聞いてくれなくなると困るので、手早くパソコンに接続されたマイクに話しかける。 「お父さん、こんばんは」 ≪やあ、杏。今日はどんな一日だったかな≫  画面の中で話すもう一人の自分に立花は度肝を抜かれた。画面とノアを交互に見比べ、信じられないという気持ちを隠せなかった。 「まさか、そんなことが本当に可能なのか? これは…… 確かに擬似夢として作用するんですか? ただの映像なんじゃ?」 「正真正銘の擬似夢です。擬似夢の中では盲目も難聴も関係ありません。加えて私の夢は脳波にほとんど影響いたしません。これを是非杏さんへ。お渡しする前に希望のメッセージがあれば組み込むことも可能ですよ」  立花はまだ目を見開き、画面に映し出された精巧な映像に心奪われているようだ。 「貴方達について調べさせていただきました。この夢は杏さんの願いです。もう一度皆さんの声を聞きたいんだそうですよ」  ノアの言葉を聞いて、立花は悲しみと罪悪感が入り混じったような顔をした。 「杏が、そんなことを…… 耳が聞こえなくとも何不自由させないよう、今日まで手を尽くしてきました。行きたいところへ連れて行き、出来る限り一緒に時間を過ごしてきました。けれど最近は何も欲しがらなくなって、何か出来ることはないかと頭を悩ませていたのですが。そうか、声か…… それは言い出せないよなぁ……  ごめんなぁ、杏、気づいてやれなくて」  そう言って立花は潤んだ目元をハンカチで押さえた。そして、覚悟を決めた様子でノアに向き直る。
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