幼馴染

1/3
前へ
/189ページ
次へ

幼馴染

  ◆ ◆ ◆  扉を開けると、部屋の中には男が一人立っていた。ピーピピッと鳴るモニター、ガラスと金属がカチャッと当たる、白衣の擦れる音…… 「お父さん」  男はその声に振り返る。 「ノア、ここへは入っちゃダメだって言ったろう?」  そう注意する声は柔らかく、こちらを見つめるアッシュグレーの瞳は優しさを帯びていた。  扉から半分だけ顔を覗かせる小さな我が子を、男は宝物の様に抱き上げた。 「眠れないのか?」 「怖い夢を見たの」 「そうかぁ、怖い夢か!」  男はハッハと笑った。 「どうして笑うの? とっても怖かったんだよ」 「ああ、すまない。ノアは凄いなと思ってね」 「ぼく、すごいの?」 「ああ、お前は特別な子なんだよ」  そう言って男は我が子の額にキスをした。 「寝室に戻ろう。お前が眠るまで手を握っていてあげるから」 「ぼくが眠ったら、またお仕事に戻っちゃうの?」 「ああ、ごめんよ。でも後ほんの少しなんだ。この薬が完成すれば、世界中の人を助けることができるんだよ」 「おくすり?」 「そう、父さんのお仕事さ。もう名前も決めてあるんだ。親しみやすくて、分かりやすい名前がいいと思ってね」  男が手にした書類には難しい数式やグラフが所狭しと並んでいた。少年にはチンプンカンプンだったが、書類の一番上に書かれた文字だけは読むことが出来た。 「どりーぜ?」  世界が白くなる––––   ◆ ◆ ◆
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加