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幼馴染
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扉を開けると、部屋の中には男が一人立っていた。ピーピピッと鳴るモニター、ガラスと金属がカチャッと当たる、白衣の擦れる音……
「お父さん」
男はその声に振り返る。
「ノア、ここへは入っちゃダメだって言ったろう?」
そう注意する声は柔らかく、こちらを見つめるアッシュグレーの瞳は優しさを帯びていた。
扉から半分だけ顔を覗かせる小さな我が子を、男は宝物の様に抱き上げた。
「眠れないのか?」
「怖い夢を見たの」
「そうかぁ、怖い夢か!」
男はハッハと笑った。
「どうして笑うの? とっても怖かったんだよ」
「ああ、すまない。ノアは凄いなと思ってね」
「ぼく、すごいの?」
「ああ、お前は特別な子なんだよ」
そう言って男は我が子の額にキスをした。
「寝室に戻ろう。お前が眠るまで手を握っていてあげるから」
「ぼくが眠ったら、またお仕事に戻っちゃうの?」
「ああ、ごめんよ。でも後ほんの少しなんだ。この薬が完成すれば、世界中の人を助けることができるんだよ」
「おくすり?」
「そう、父さんのお仕事さ。もう名前も決めてあるんだ。親しみやすくて、分かりやすい名前がいいと思ってね」
男が手にした書類には難しい数式やグラフが所狭しと並んでいた。少年にはチンプンカンプンだったが、書類の一番上に書かれた文字だけは読むことが出来た。
「どりーぜ?」
世界が白くなる––––
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