安楽夢

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 今聞いた言葉の意味を、脳が正常に読み取る事を拒否していた。ノアが返事をしなかったので、リリーは先を続けた。 「お父様とお母様は海外出張が多くて、お兄様は二人とも学園寮にいたから、私はいつもこの大きな家でマーサと二人きりだった。そんな私の為にノアが作ってくれたんだよね、私の家族の擬似夢。火事の前は、よく見せてくれたじゃない」 「……その夢が、なんだって?」 「だから、その夢を安楽夢に……」 「ふざけるな!!!!!」  叫んだ拍子に扉が開いた。きっと外で様子を伺っていたのだろう。エマが引っ張る様にノアを部屋の外へと連れ出す。  マーサは申し訳ないという表情でこちらを見つつ、リリーの背中をさすっている。 「リリー、とりあえず落ち着けよ! 暗いこと考えちまう日だってあるよな、また前向けそうになったら言ってくれよ、今日はありがとうな! マーサも、ココア美味しかった! 見送りはいらねえよ、じゃあ、!!」  上着を羽織りもせず、足早に外に出た。通りに出たところで、やっと動きを止めた。  エマが上着を羽織りボタンを留めていると、首にストールが巻かれた。 「……人に優しくしてる余裕あんの?」 「今、僕の親切を無下にしたら許さないぞ」 「へいへい。……なあ、夢屋寄っていい?」 「気を遣っているなら結構だ。人に愚痴をこぼすタイプじゃない」 「あたしはココアを一杯飲みそびれたんだ! だから極上の一杯を淹れてもらう権利があんだよ」 「はあ、仰せのままに」  紫がかった空に、一番星が輝いていた。
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