劇薬

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「なぁ、リリーが見たがってた擬似夢ってどんなの?」  エマが尋ねてきたので、書棚から古いアルバムを取り出し、その最終ページからチップを一つ取り出した。  それをモニターに映し出す。  顎髭を蓄えた茶髪の男性と、リリーによく似た白い長髪の女性が椅子に座って微笑みかけている。その前で、やんちゃそうな男の子二人が取っ組み合って遊んでいる。鳥の囀りと、四人の笑い声が聞こえてくる。  温かな日差しの中、彼らは庭でピクニックをしている。マーサがお茶のお代わりを運んできた。それは紛れもない、今日二人が訪れた家の庭だった。 「……まあ確かに、これを見せなくしたのは正解だな」 「火事の前は、この夢は光ある未来だった。次の休暇にはこの光景が待っている、だからもう少しの辛抱だ、と。けれど火事で彼らを失った後は、これは彼女を過去へと誘う劇薬になってしまった。そんなもの、もう夢でも何でもない」 「で、どーすんの? これから。まさかずーっと喧嘩したまんま?」 「僕が折れるわけにいかないだろう」 「折れる必要はねえよ。でも、説得はしてやんねえと。あたし直前からしか聞いてなくて、そもそもなんで安楽夢の話になったんだ?」    ノアは忌々しい記憶を辿った。頭に血が上っていたので、あまり内容を思い出せない。 「自分だけ取り残されていくのが嫌だと言うから、僕がいるって言ったんだ。それ以外はただの昔話だったよ」 「あーーー……」 「何だい、苛つくね。無知な私めの為に、乙女心とやらをご教授願えますか?」 「いや、乙女心はあたしにも分かんねえけどさ、リリーは嫌だったんじゃない? ノアの足手纏いになるのが」 「は?」
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