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夢物語
次の日、ノアは一人でホワイト家を訪れた。マーサが喜びと哀しみが入り混じった表情で迎え入れてくれる。
リリーに来訪を伝えようとするマーサを止めて、居間で少し話をしようと誘った。
「安楽夢の話、マーサは知っていたのかい」
「ええ、まあ…… ここ一、二ヶ月のことなんだけれど。きっと体力が落ちてきたから冬を越せるのか不安になってしまったんだわ。年末は私が付いていてあげられないし」
「ああ、ひ孫さんが生まれたんだってね、おめでとう」
マーサは目を細めて笑った。
「ありがとう。私もいつまでも元気というわけではないから、今のうちにどうしても会いたくて。ひ孫達をこの家に招待しようかとも思ったの、そうすればリリーお嬢様のお世話も出来るじゃない? けど、断られてしまったわ。火傷の顔を見せたらひ孫が怖がると言っていたけど、きっとこの家が子供達の笑い声で溢れるのが、耐えられないのでしょうね。無理もないわ」
「けれど安楽夢なんて、絶対に認められないよ。リリーはいくらだって元気になれるんだから」
そう言ったところで、リリーの部屋の呼び鈴が鳴った。
マーサが立ち上がろうとするのをノアが止める。
「僕が行くよ。大丈夫、もう声を荒げたりしないから」
マーサは少し不安そうな顔で見送った。
二階へ上がり、ノックをしてから扉を開けると、リリーは上体を起こして窓の外を眺めていた。
眺めていると言っても、彼女は大まかな明暗を認識できる程度で外の景色が分かるわけではないのだが。それでも確かに彼女は空の移ろいを感じているようだった。
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