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「春になったら僕は君とピクニックに行きたい。マーサお手製のサンドイッチを持ってね。最近できたカフェのガトーショコラを君と食べに行きたい。絶品なんだけど、テイクアウトが出来ないんだ。来年隣町に大きな商業施設が出来るらしい。僕は君と行きたい。君が欲しいものをヘトヘトになるまで買って回るんだ。全部全部、僕の我儘だ。こんな僕を、君は邪魔だと思うだろうね」
リリーはノアの腕の中で小さく震え、必死に首を横に振る。大粒の涙が頬を伝う。
可哀想なリリー、ごめんよ。ノアは何度も心の中で呟いた。こんな形でしか彼女をこの世に留めておくことが出来ない自分が歯痒かった。本当の枷は己ではないか、ノアは自分の無力さを呪った。
「ごめんなさい。マーサが年々年老いてしまって、このまま本当に独りぼっちになっちゃうんじゃって不安になったの」
「誰だって後ろ向きになることはあるよ。けれどもう、死という選択肢は選ばないでおくれ。僕だけじゃない、マーサもエリックもエマも、みんなが君を大切に想っているんだから」
ノアはリリーの額に優しく口づけをした。リリーは照れているような、少し残念な気持ちを隠すような、そんな表情をした。
「ちゃんと食事を摂って、時々はベッドから出ておくれ」
「うん、頑張る。今日はありがとう。エマにも謝っておいてくれる?」
「ああ、気にしちゃいないだろうが、ちゃんと伝えておくよ」
「ねえ、ノア……」
「うん?」
リリーの頬が紅色に染まっている。
その熱に触れようと無意識に手を伸ばし、すんででサッと手を引っ込めた。リリーは何も気づいていないようだった。
「……ううん、やっぱり、なんでもない。今日は本当に、ありがとう」
「ああ、また来るよ。リリー」
そうして温かな空気に包まれたホワイト家を、ノアは後にしたのだった。
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