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◇ ◇ ◇
帰り道、ノアの脳裏には在りし日のマーガレットとアイザックが抱き合う姿が浮かんでいた。
あの二人を愚か者だと言う資格が、はたして自分にあるのだろうか。誰よりも大切な女性に愛していると伝えることもできない自分に。
けれど同時に、己には愛を囁く資格がないことも分かっていた。IDEOの秘密を暴くということ、その先にどんな危険が待ち受けていようとも、ノアは歩みを止める気はなかった。
死にたいと嘆く彼女を引き止めておきながら、自らもあの世に片足を突っ込んでいるのだから救いようがない。
今の自分に、彼女を幸せにすることなど叶わない。叶わないのなら、彼女に愛を伝えることは他でもない己が許さなかった。
「君は知らないだろうね。僕は君の何十倍も残念そうな顔をしてるってこと」
呟いた言葉は冬の澄んだ空気に溶けていく。
いつか額ではなく、その唇に口づけが出来たなら。ウエディング姿の彼女が微笑む相手は、己であって欲しい––––
だから失敗は許されない、絶対に奴らの尻尾を掴んでみせる。
この幸せな夢物語を、現実にするために。
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