僕ではない誰か

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  ◇ ◇ ◇  朝の身支度を終えたタイミングで夢屋のベルがカランと鳴った。艶やかな黒髪と褐色の肌が覗き込む。 「おはようさん! 元気か~」 「今さっきまでは」 「また捻くれたこと言ってよ~。リリーは元気だったか?」  安楽夢の件は一応解決したし、わざわざエリックに知らせるべきだろうか。それよりも、集合の予定がないのにやってきた彼の要件を先に聞くことにした。 「体調は良いみたいだったよ。気分が少し落ち込んでいたみたいだけど、それも良くなったから心配はいらない。それより、今日は何の用だい?」 「ああ、まだ確定じゃないんだがな…… もしかしたらIDEO主催のパーティに潜入できるかもしれない」  電子暖炉を起動させていたノアがエリックを見やる。エリックは手柄を勝ち取ったという様子ではなかった。 「それにはお前の助けが必要だ。俺としては、IDEOの件がなくても引き受けてくれると助かる」 「……茶を淹れよう」 「今日は冷えるからなあ。あったかいココアってある?」  IDEOと接触する日は、案外すぐそこまで迫っているのかもしれない。
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