Xデー

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「そこでなんですが、ノアさん。貴方も潜入、しちゃいませんか?」 「え?」  立花はスーツの内ポケットから、一枚の黒い封筒を取り出した。 「今日はこの為に来たんです。実は私の元にも届いたんですよ、パーティーの招待状が。一枚につきもう一人まで招待ができます」  立花が支援を始めたのは半年前からだ。このタイミングでパーティーに呼ばれるのは何も不思議なことじゃない。  ノア達の存在や立花との繋がりが向こうに筒抜けで、罠に嵌めるためにおびき寄せているとは考えにくい。 「……なるほど、私は立花さんの招待人として潜入するわけですか」 「後任の秘書でも、旧友でも、いくらでも言いようはあります。悪くない話ですよね」 「どうするんだ、ノア?」  鍛え上げられた肉体にそぐわない、不安を滲ませた声でエリックが尋ねる。立ち向かえるだけの情報が揃うまでは近づかない…… 世代交代や独立というのはノア達で作り出した仮説に過ぎない。こんな状態で潜入などしていいのか?   しかし、悠長にしていられないのもまた、事実だった。 「わかった、やろう。ただし、潜入するのは僕だけだ。変装はバレてしまった時の言い訳が付かない」  エリックがグッと悔しさを飲み込んだ。喜びは暑苦しい程に表現するくせに、怒りの感情を周りに当たり散らすことは滅多にない。  いつもは間抜けな単細胞のくせに、こういう時の保護者然とした態度にはどうにも敵わないと、ノアは密かに思うのだった。 「情けない話だが、自分でも師匠になりきるのには無理があるって思うぜ。下手をして尻尾を掴まれるより、ここはノアに任せるべき、なんだよな」 「悪いな、エリック。お前を信用していない訳じゃないんだ」  エリックはニカッと笑うとテーブル越しにノアの頭をくしゃっと撫でた。ノアは不満たっぷりに睨みつける。 「分かってるさ、兄弟! サポートは他にもいくらだってできる。俺は俺のできることをするまで、だろ?」 「お前にしては、分かってるじゃないか」  乱れた髪を整えながら、ノアは小さく微笑んだ。彼のアッシュグレーの瞳が、煌めいて揺れる。 「パーティーは、何日後ですか」  先程までの笑みは、もうどこにも無かった。怒りや憎しみとは程遠い、ただ静かな覚悟だけがそこにはあった。その緊張が立花にも伝播する。 「ちょうど三週間後の、十二月二十日です」  Xデーは、近い。
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