寝言

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寝言

 あの日から、雨は暫く降り続いた。鈍色の空から凍てつくような雫がとめどなく落ちてくる。傘を差した人々が速足で通りを行く。誰も彼もが己の足元ばかりを気にしていた。  ノアは行き交う人々を眺めながら、窓際で雨音を録音していた。最悪の天気ではあるが、この雨音のアンサンブルは存外ノアの疲れを癒してくれる。 「ねえ、本当に一人で潜入するわけ?」 「ああ」 「考え直しなよ〜。下っ端の隊員に金握らせてさ、そいつの代わりにぼくも潜入するから」 「だめだ」 「なんでよ~!!」  レオは暖炉の前で靴を脱ぎ、濡れた靴下を乾かしながら不貞腐れた。かれこれ一時間この態度ではさすがにノアもうんざりしてしまう。  今までカメレオンとして様々な舞台に潜入してきたレオだからこその視点もあるのだろうが、やはり変装での潜入はリスクが大きすぎる。相手はあのIDEOなのだから。 「ねえ、せめてさ、当日ぼくにメイクさせて?」 「それもだめだ。女性ならともかく、僕が化粧をする理由があるか? 万が一化粧がよれた時の言い訳はどうする?」 「そこまで不思議なことでもないでしょ~」 「僅かな注目も浴びたくないんだ」 「それなら余計しなくちゃ」 「?」 「そのままのノアは美人過ぎるもん。会場の誰よりも目立っちゃうよ」 「寝言は寝て言え」
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